さいだん座神話と構成する星、見つけ方から天体観測の魅力まで

さそり座の南に輝くさいだん座は、古代ギリシャの祭壇の姿を映す南天の星座です。ゼウスの誓いの祭壇とされる神話や、β星を中心とした構成星、球状星団NGC6397など天体の魅力をご存知ですか?

さいだん座の神話と構成する星

この記事のポイント
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神話の背景

ゼウスとタイタン族の戦いに関わる祭壇、またはケンタウルスが神に捧げた祭壇の伝説

構成する星々

β星を筆頭に3等星4個を含む約70個の星で構成された控えめな輝きの星座

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観測の魅力

地球最近傍の球状星団NGC6397や散開星団など見どころ豊富な天体領域

さいだん座の神話とゼウスの誓い

 

さいだん座は古代ギリシャ時代から知られる星座で、プトレマイオスが2世紀にまとめた48星座の一つに数えられます。紀元前2~3世紀の詩人アラトスは、天文詩「ファイノメイナ」の中でこの星座を「犠牲をささげるもの」として記述しており、非常に古い歴史を持つ星座です。

 

参考)さいだん座ってどんな星座?【神話も紹介】

最も有名な神話では、大神ゼウスとその兄弟たちが父クロノスとタイタン族の旧体制を打ち負かすことを誓った祭壇とされています。この祭壇はサイクロプスによって作られ、ゼウスたちがクロノスを倒すときに火が灯されたという言い伝えも残っています。神々の誓いという重要な場面を象徴する祭壇が、夜空に永遠に刻まれたわけです。

 

参考)さいだん座 - 新興出版社啓林館・文研出版 万博プロジェクト

一方で、ケンタウルス座のケイローンまたはポロスが仕留めたオオカミ(おおかみ座)を神に捧げるための祭壭だったという説も伝わっています。さいだん座、ケンタウルス座、おおかみ座は天球上で近接しており、これら3つの星座が一つの物語で結びついているのは興味深い点です。

 

参考)さいだん座|やさしい88星座図鑑

さいだん座を構成する主な星の特徴

さいだん座は約70個の星で構成されており、3等星が4個、4等星が4個含まれています。しかし、最も明るい星でも3等星と控えめな輝きで、天の川の多くの星がひしめくエリアに位置しているため、星座の形を見分けるには少し目を凝らす必要があります。

 

参考)さいだん座とは?見つけ方や見どころ

星座の中で最も明るいのはβ星(ベータ・アライ)で、等級は2.84です。このβ星はオレンジ色に輝くK3型の超巨星で、太陽よりもはるかに大きく、星図では祭壇の上の火が出る部分に位置しています。さいだん座の中心に位置する目印となる星です。

 

参考)さいだん座「Ara(アラ)」の探し方や神話と誕生日星や星言葉…

2番目に明るいのはα星(アルファ・アライ)で、等級は2.95の変光星です。B2型のBe星に分類され、2.79から3.13の間で明るさが変化する特徴を持っています。国際天文学連合に認証された固有名はありませんが、19世紀末のアメリカの博物学者リチャード・ヒンクリー・アレンによれば、中国で「杵(チョウ)」という呼び名があったとされます。

 

参考)さいだん座アルファ星 - Wikipedia

その他にもγ星(3.32等級、B1型)、δ星(3.59等級、B8型)などが星座の形を作っています。これらの星々を結ぶと、「中心で折れ曲がった長方形」や「ページを開いたまま伏せられた本の形」のようなラインが浮かび上がります。

 

参考)Names of stars in Ara.

さいだん座の見つけ方と観測時期

さいだん座は南天の星座で、日本からは沖縄や奄美大島など南の地域以外では全体の姿を見ることができません。本州から観測する場合は星座が逆さまに見え、煙の部分が下になるという特徴があります。

 

参考)https://seiza.imagestyle.biz/minami/saidan.shtml

見つけ方としては、さそり座を目印にするのが最も効果的です。1等星アンタレスを持つさそり座は見つけやすく、そのS字カーブを描く尾の部分のすぐ南にさいだん座は位置しています。また、みなみのさんかく座とさそり座の間という位置関係も覚えておくと便利です。みなみのさんかく座は1個の2等星と2個の3等星が大きな三角形を作っているので、目に留まりやすいでしょう。

観測に適した時期は10月下旬から2月上旬、特に12月から1月の澄んだ夜空がおすすめです。日本で観測する場合は夏の夜、南の空を見上げるのが良いでしょう。ただし、20時に南中するのは8月4日ごろとされています。

 

参考)さいだん座

南半球、特にオーストラリアやニュージーランドでは冬の時期に全景を観測できます。さいだん座は南半球の冬の夜空を代表する星座の一つとして、南十字星やケンタウルス座と共に人気の観測対象となっています。

さいだん座の天体観測の見どころ

さいだん座の領域には、観測価値の高い天体が数多く存在します。最も注目すべきは球状星団NGC6397で、地球から約7800光年の距離にあり、M4と並んで地球に最も近い球状星団の一つです。

 

参考)地球に近く、非常に古い球状星団「NGC 6397」 ハッブル…

NGC6397の年齢は134億歳と推定されており、宇宙初期に誕生した非常に古い球状星団です。約40万個の恒星を含み、良い観測条件の下では裸眼でも見ることができます。星団内の青い星は寿命が近づきつつある星で、中心部で水素を使い果たし、現在はヘリウムの核融合反応により輝いています。明るさは5.8等星で、さいだん座の中程に位置しています。

 

参考)NGC 6397 - Wikipedia

さいだん座の領域は天の川に位置しているため、散開星団散光星雲も多数存在します。特に輝線星雲NGC6188は、さいだん座の方向約4000光年先にあり、青白い星々の輝きと赤い雲のコントラストが美しい天体として知られています。

 

参考)南半球の星座「さいだん座」を紹介します。

観測にあたっては、できるだけ街灯などの人工光から離れた暗い場所を選ぶことが重要です。さいだん座は比較的暗い星で構成されているため、光害の少ない場所での観察が理想的です。肉眼での観察は難しいので、双眼鏡や小型望遠鏡を使うとより詳細に観察できます。

さいだん座と星占いの意外な関係

さいだん座は黄道12星座には含まれないため、一般的な星占いには登場しません。しかし、誕生日星という概念では、特定の日に生まれた人とさいだん座の星が結びつけられています。

古代においてさいだん座は、「航海の星座」として暴風雨を予知する役割を担っていました。アラトスの「ファイノメナ」では、さいだん座が南の空に低く見える頃に海が大荒れになるという言い伝えが残されています。航海が命がけだった時代、星座は天候を読む重要な指標だったのです。

中世から近世にかけて、さいだん座は「トゥリブルム(香炉)」とも呼ばれていました。トゥリブルムは教会の儀式に用いられる道具で、この呼び名からもさいだん座が信仰と強く結びついていたことがうかがえます。実際、古代ギリシャには神に供物を捧げるために多くの祭壇が実在しており、神と意思疎通するために必要な祭壇は古代の人々にとって非常に重要なものでした。

さらに興味深い伝説として、バベルの塔の頂上に立つ神殿の祭壇や、クロノス神が息子のゼウスに殺害され王位を奪われると予言した祭壇、リュカオン一族がゼウスに供物を捧げるために作った祭壇など、複数の神話や伝説に結びつけられてきました。これは、祭壇という概念が古代文化において普遍的で重要な意味を持っていたことの表れといえるでしょう。

地球に近く、非常に古い球状星団「NGC 6397」ハッブル望遠鏡が撮影 - アストロピクス
球状星団NGC6397の詳細な画像と解説が掲載されており、さいだん座の代表的天体について深く学べます。

 

星座八十八夜 - アストロアーツ
プトレマイオスの48星座を含む、88星座全体の歴史と成り立ちについて詳しく解説されています。

 

 


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