エウロパの生命の想像図、内部海と氷下の熱水噴出孔の可能性

木星の衛星エウロパに生命は存在するのか?厚い氷の下に広がる内部海、そして想像図に描かれる生命の姿。最新の探査計画から、その可能性と想像を絶する過酷な環境まで、エウロパの生命の謎に迫ります。果たして、そこにいるのはどんな生き物なのでしょうか?

エウロパの生命と想像図

エウロパ生命探査の3つの鍵
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内部海

地表を覆う厚い氷の下には、地球の全海水を合わせた量より多いと推定される広大な塩水の海が存在する可能性が指摘されています。

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エネルギー

太陽光は届きませんが、木星の強大な重力による潮汐力で内部が温められ、海底火山や熱水噴出孔が存在する可能性があります。

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有機物

生命の材料となる有機物は、探査機の観測やシミュレーションにより、宇宙空間から供給されたり、海中で生成されたりする可能性が示唆されています。

エウロパの生命存在の可能性を支える厚い氷と内部海

 

木星の第四衛星であるエウロパは、太陽系の中で地球外生命が存在する可能性が最も高い天体の一つとして、科学者たちの熱い注目を集めています 。その最大の理由は、厚い氷の層の下に、広大な液体の海、すなわち「内部海」が隠されていると強く信じられているからです 。
エウロパの表面は、太陽系の天体の中で最も滑らかであることが知られており、大きなクレーターが少ないことから、表面の氷が比較的新しい時代に更新され続けていることを示唆しています 。これは、氷の下で活発な地質活動、つまり内部海の存在を裏付ける間接的な証拠と考えられています。探査機ガリレオの磁場データ観測では、エウロパの内部に電気を通す層、つまり塩水の海が存在することを示す結果が得られました 。この海の水の総量は、地球の全海水を合わせた量の2倍以上にもなると推定されており、まさに「水の惑星」と呼ぶにふさわしいポテンシャルを秘めています 。
この氷の殻の厚さがどれくらいなのかは、エウロパの生命の可能性を考える上で非常に重要な鍵となります 。

 

参考)衝突シミュレーションで探る氷衛星エウロパの構造 - アストロ…

  • 薄い氷殻説(数km〜10km程度):表面の亀裂から海水が噴出しやすく、宇宙からの有機物や放射線によって生成された酸化物が海に供給されやすいため、生命活動のエネルギー源が豊富になる可能性があります。
  • 厚い氷殻説(20km〜30km以上):海の環境が外部から守られ、安定した状態が長く続く可能性がありますが、物質の循環は起こりにくくなります。

最近では、ハッブル宇宙望遠鏡がエウロパの南極付近から、高さ200kmにも達する巨大な水蒸気の噴出(プルーム)を複数回観測しました 。これは、氷の割れ目から内部の海水が宇宙空間に直接噴き出している現象と考えられており、内部海の存在を決定づける強力な証拠となっています。将来の探査機がこのプルームの中を通過して成分を分析できれば、海に潜らずとも生命の痕跡を発見できるかもしれません。
以下のリンクは、国立天文台によるエウロパの氷殻構造に関するシミュレーション研究の解説です。天体衝突によって氷がどの程度溶けるかを計算し、氷の厚さを推定するアプローチについて詳しく知ることができます。

 

衝突シミュレーションで探る氷衛星エウロパの構造 - 国立天文台

エウロパの生命のエネルギー源?地球とは異なる熱水噴出孔の役割

エウロパの分厚い氷の下にある海は、太陽光が全く届かない漆黒の世界です 。光合成に頼る地球上の多くの生命とは根本的に異なるエネルギー源が必要になります。その最有力候補が、海の底に存在すると考えられている「熱水噴出孔」です 。
地球の深海底でも、熱水噴出孔の周りには、太陽光に頼らない独自の生態系が築かれています。地中から噴き出す熱水に含まれる硫化水素などの化学物質をエネルギー源とするバクテリア(化学合成細菌)が生産者となり、それを食べるチューブワームや貝、エビなどが繁栄しています 。
エウロパで熱水噴出孔を生み出すエネルギー源は、木星の巨大な重力が引き起こす「潮汐加熱」です 。エウロパは木星を公転する際に、木星や他の衛星からの重力によって、ゴムボールのように伸び縮みを繰り返します。この時に発生する摩擦熱が、岩石でできた核(マントル)を温め、火山活動や熱水活動を引き起こすと考えられているのです 。

 

参考)https://www.wakusei.jp/book/pp/2011/2011-2/2011-2-100.pdf

エウロパの海底に熱水噴出孔があれば、そこから水素やメタンといった還元的な物質が供給されます 。一方で、エウロパの表面では、木星からの強力な放射線が氷(水)や不純物を分解し、酸素などの酸化的な物質が生成されます 。これら酸化物が、氷の亀裂などを通じてゆっくりと海に運ばれることで、還元物質と酸化物質が出会う場が生まれます。この化学的なエネルギーの勾配(レドックス)こそが、生命が誕生し、活動するための絶好のエネルギー源となりうるのです 。地球の生命もまた、このような化学エネルギーの不均衡を利用して誕生したという説が有力です。

 

参考)https://www.liebertpub.com/doi/pdf/10.1089/ast.2016.1600

以下のJ-STAGEの論文では、地球とエウロパの海底熱水噴出孔の違いと、潮汐加熱がエウロパの内部海を維持するメカニズムについて専門的に解説されています。

 

地球とエウロパの海底熱水噴出孔 - J-STAGE

エウロパ探査の最大の壁:想像を絶する木星の放射線とその対策

エウロパの生命探査における最大の障害は、親である木星が放つ超強力な放射線です 。木星は地球の数万倍も強力な磁場を持っており、その磁場に捉えられた高エネルギーの電子やイオンが、エウロパの軌道周辺に「放射線帯(ヴァン・アレン帯のようなもの)」を形成しています 。
エウロパの表面で人間が浴びる放射線量は、1日あたり約5,400ミリシーベルト(mSv)にも達します. これは、地球上の私たちが1年間に自然界から受ける平均放射線量(約2.4mSv)の2000倍以上であり、人間なら即死に至るレベルです。この強烈な放射線は「宇宙の死の罠」とも呼ばれ、精密な電子機器で構成される探査機にとっては致命的な脅威となります 。
この過酷な環境を乗り越えるため、NASAが2024年10月に打ち上げたエウロパ探査機「エウロパ・クリッパー」には、想像を絶するほどの放射線対策が施されています 。

 

参考)木星の衛星「エウロパ」に生命は存在できるのか?探査機「エウロ…

主な放射線対策は以下の通りです。

  • 放射線シールド(防護壁):探査機の心臓部である電子機器は、厚さ約1cmのアルミニウムと亜鉛の合金で作られた「ボールト」と呼ばれる箱の中に格納されています 。これにより、放射線の大部分を遮蔽します。
  • 放射線耐性部品の使用:シールドで守られていないセンサーやケーブルなどにも、放射線に強い特別な部品が選ばれています 。
  • 巧みな軌道計画:探査機は木星の周りを大きく楕円を描くように周回し、放射線が最も強い領域を高速で通過して、エウロパへの接近(フライバイ)を繰り返すという戦略をとります 。これにより、総被曝量を最小限に抑えつつ、40回以上もエウロパに接近して詳細な観測を行う計画です。

放射線量の比較
場所 1日あたりの放射線量(推定) 特徴
エウロパ表面 ~5,400 mSv 人間や通常の電子機器は数時間で機能不全に陥るレベル 。
国際宇宙ステーション(ISS) ~1 mSv 地球の磁場に守られているため、比較的低い。
地球の地表 ~0.0066 mSv 大気と磁場によって大部分が遮蔽されている。

このような徹底した対策によって、エウロパ・クリッパーはミッション期間中、安全に観測を続けることができるのです。

 

以下の三菱電機DSPACEの記事では、エウロパ探査における放射線の脅威が「本丸を守る掘」と表現されており、その過酷さと対策の重要性が分かりやすく解説されています。

 

探査鳴動|三菱電機 DSPACE

エウロパの生命の想像図:SFではない科学的根拠に基づく姿とは

「エウロパに生命がいるとしたら、どんな姿をしているのだろう?」こうした問いから生まれるのが、科学的な知見に基づいた「生命の想像図」です。これらは決して単なる空想の産物ではなく、エウロパの過酷な環境を生き抜くために必要な機能や形態を、地球上の生命を参考にしながら論理的に考察した結果です。

 

エウロパの内部海に生命が存在する場合、それはおそらく地球の深海生物や、極地の氷の下で生きる生物(極限環境微生物)に近い特徴を持つと考えられます 。

  • 化学合成生物 🦠:太陽光が届かないため、光合成は不可能です。生命活動の基本となるのは、熱水噴出孔などから供給される化学物質をエネルギーに変える「化学合成」でしょう 。地球の深海でも、硫化水素を栄養源とする微生物が食物連鎖の底辺を支えています。
  • 圧力への適応 💪:エウロパの海は水深100kmに達する可能性があり、その海底の水圧は地球の最も深いマリアナ海溝の10倍以上にもなります。そこに住む生物は、この超高圧に耐える特殊な体を持っているはずです。
  • 生物発光 ✨:漆黒の闇の中では、コミュニケーションや捕食のために、自ら光を発する能力(生物発光)を持つ生物が進化しているかもしれません。地球の深海魚の多くが発光器を持っているのと同じ理由です。
  • 単純な形態:エネルギーが限られた環境では、複雑で大きな体を持つ生物は進化しにくいと考えられます。もし存在するとしても、微生物や、クラゲやエビのような比較的小さく単純な構造の多細胞生物が主流かもしれません。

想像図で描かれるタコのような生物や、魚のような姿の生物は、あくまで地球の生物をモデルにしたアナロジー(類推)です。しかし、そこには「複数の腕で効率的に餌を探す」「流線形の体で水中を移動する」といった、物理法則に基づいた合理的な意味が込められています。

 

生命の材料となるアミノ酸などの有機物は、彗星によって外部から供給されたり、海中の化学反応で生成されたりする可能性が指摘されています 。これらの「生命のビルディングブロック」が、熱水噴出孔のようなエネルギーが集中する場所で重合し、最初の生命が誕生したのではないか、と科学者たちは考えています。

独自視点:エウロパの氷が光る?放射線が誘発する「アイスグロー」現象と生命探査への応用

エウロパ探査において、木星の強力な放射線は厄介な障害でしかありませんでした。しかし、近年の研究で、この放射線が逆にエウロパの秘密を解き明かす「鍵」になる可能性が浮上しています。それは、放射線によってエウロパの氷自身が発光する「アイスグロー(Ice Glow)」と呼ばれる現象です 。
これは、木星の磁場に捉えられた高エネルギーの電子がエウロパの表面に降り注ぎ、氷に含まれる化合物と衝突して光を放つ現象です。実験室でのシミュレーションによると、氷に含まれる物質の種類によって、発光する光の色や強さが変わることが分かってきました。

 

  • 硫酸マグネシウム(エプソム塩)が含まれている場合 → 緑色がかった光
  • 塩化ナトリウム(食塩)が含まれている場合 → オレンジ色がかった光

この現象がなぜ重要かというと、エウロパの表面の様々な地形(例えば、新しい氷が露出している亀裂や、内部の物質が噴出した可能性のある場所)の色や模様は、内部の海から染み出した物質が凍りついたものである可能性が高いからです 。つまり、このアイスグローの「色」と「場所」を詳細に観測することで、宇宙から直接、エウロパ表面の化学組成をマッピングできる可能性があるのです 。
探査機エウロパ・クリッパーは、エウロパの夜側(太陽光が当たらない側)をフライバイする際に、このかすかな氷の輝きを観測する計画を立てています 。もし、特定の亀裂や地域だけが他とは違う色の光を放っていれば、そこは内部の海水が最近噴出した場所であり、生命の痕跡を探す上で最も有望な「Xマーク」となり得ます。
放射線という「脅威」を、生命探査の「道しるべ」に変えるという逆転の発想は、科学の面白さであり、エウロパ探査の意外な一面と言えるでしょう。このアイスグローの観測は、将来の着陸探査ミッションでどこを掘削すべきかを決定する上で、極めて重要な情報をもたらしてくれるかもしれません。

 

 


シークレット・ウォー ナチス極秘計画(吹替版)