ベリトは17世紀の魔術書「レメゲトン」の第一部「ゴエティア」に記される、ソロモン72柱の悪魔の一柱です。序列は第28位で、地獄における階級は公爵(デューク)とされ、26の軍団を率いる強大な存在として描かれています。
ベリトの最も特徴的な姿は、赤い衣装をまとい、赤い馬にまたがった兵士または騎士の姿です。頭には王冠を戴いており、重厚で威厳のある外見で召喚者の前に現れるとされています。この赤を基調とした姿は、彼の持つ力と危険性を象徴していると考えられています。
別名として「ベアル(Beal)」「ボフリ(Bofry)」「ボルフリ(Bolfri、Bolfry)」などの呼び名があり、地域や文献によって表記が異なります。またヨーハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」にも同様の記述が見られ、複数の魔術書で言及される重要な悪魔の一人です。
興味深いことに、ベリトと名前が似た「バルベリト」という悪魔も存在します。セバスチャン・ミカエリスによれば、バルベリトは第一階級の悪魔で、堕天する前は智天使の君主であったとされています。殺人と冒涜を司り、聖バルナバの敵対者として位置づけられていますが、これはベリトとは別の存在です。
ベリトが持つ最も注目すべき能力の一つが、錬金術の力です。金属を黄金に変える能力を持つとされ、召喚者に富をもたらす可能性がある悪魔として知られています。また、人を尊厳をもって飾る力も持つとされ、召喚者の地位や名声を高める能力があると考えられていました。
予言に関しては、過去・現在・未来の質問に答える能力を持つとされています。召喚者が頼めば、ベリトは真摯に回答してくれるという記述がゴエティアには見られます。時間を超えた知識にアクセスできる点で、非常に強力な情報源となりうる存在です。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。ベリトは「しばしば嘘をつく」ため信用してはならないと警告されているのです。この二面性こそがベリトの最も危険な特徴であり、召喚者を惑わす要因となっています。真実と虚偽を巧みに使い分けるその性質から、「魔界一の嘘つき」とも称されることがあります。
このため、ベリトを召喚する際には特別な注意が必要とされています。ゴエティアには、指輪を用意し、別の悪魔ベレトと同じように相対しなければならないという指示が記されています。護符として銀の指輪を左手の中指にはめることで、悪魔の危険な影響から身を守る必要があるとされているのです。
ベリトが最も詳細に記述されているのが、17世紀から伝わる魔術書「レメゲトン」です。レメゲトンは「ソロモンの小さな鍵」とも呼ばれ、5つの魔法書をまとめた構成となっていますが、その第一部が「ゴエティア」です。
ゴエティアには、古代イスラエルの賢王ソロモンが封印し使役したとされる72柱の悪魔たちの詳細が記されています。各悪魔の姿形、階級、率いる軍団の数、そして特殊能力や召喚方法が体系的にまとめられており、西洋悪魔学の基礎となる重要な文献です。
ベリトに関する記述は、序列28番目の項目として登場します。赤い馬に乗った兵士の姿、26の軍団を率いる公爵としての地位、錬金術と予言の能力、そして嘘をつく性質など、後世の創作物に影響を与える基本設定がここで確立されました。
ヨーハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」でも同様の記述が見られ、16〜17世紀のヨーロッパにおいて、ベリトは広く知られた悪魔の一人であったことがわかります。これらの魔術書は単なる創作物ではなく、当時の人々が真剣に信じていた悪魔学の体系であり、召喚の手引書として実際に使用されていた可能性があります。
Wikipediaのベリトの項目には、容姿や権能についての詳細な解説があります
ベリトは現代の様々な創作作品に登場しており、それぞれの作品で独自の解釈が加えられています。
🎮 女神転生シリーズ
アトラスのゲーム「女神転生」シリーズでは、ベリトは「ベリス」という名前で登場します。初出は「デジタル・デビル・ストーリー女神転生II」で、悪魔種族「堕天使」に分類されています。「真・女神転生III NOCTURNE」や「真・女神転生V」など、シリーズ複数作品に登場し、プレイヤーが仲魔として使役できる悪魔の一体となっています。
📚 パタリロ!
魔夜峰央の人気漫画「パタリロ!」では、ベリトは「魔界一の嘘つき悪魔」として登場します。背が低く王様のような恰好をしており、ベールゼブブの腰ぎんちゃくで嫌われ者というキャラクター設定です。しかし「百万に一度の真実がベリトの武器」という独自の解釈がなされており、ここぞという所で本当のことを言い敵を欺くという、原典の「嘘つき」という性質を逆手に取った面白い描写がされています。
🎲 その他のゲームや小説
「ゴエティア -千の魔神と無限の塔-」というブラウザゲームにもベリトは登場し、レメゲトンとの関係性が描かれています。また、Web小説「黄金蒐覇のグリード」では「金壊と武勇の魔権(ベリト)」として、黄金に関する能力と武勇を持つキャラクターとして設定されています。
これらの創作物では、原典であるゴエティアの設定を基礎としながらも、錬金術、予言、嘘つきという特徴的な要素がそれぞれ異なる形で強調され、物語に応じた個性的なキャラクター造形がなされています。
魔術書における悪魔の召喚は、単に呼び出すだけでなく、安全に対話し契約を結ぶための儀式的な手順が重視されています。ベリトの場合、その嘘をつく性質ゆえに、特に慎重な対応が必要とされます。
召喚の際には魔法陣(シジル)の使用が基本となります。ゴエティアには各悪魔に対応する特殊な紋章が記されており、これを正確に描くことが召喚の第一歩です。ベリトを呼び出す場合、必ず左手の中指に銀の指輪をはめることが推奨されています。これは護符としての役割を果たし、悪魔の危険な影響から召喚者を守るとされています。
この指輪の使用は、序列13番の悪魔ベレトの召喚方法と同じです。ベレトは召喚されることを嫌い、口から炎を吐き出して相手を燃やし尽そうとするため、銀の指輪が必要とされています。ベリトにも同様の対処が必要という記述から、両者には何らかの共通性があると考えられていたようです。
契約を結ぶ際の最大の注意点は、ベリトの言葉を安易に信用しないことです。錬金術による富や予言による知識は魅力的ですが、真実と嘘が混在している可能性が常にあります。複数の質問を重ね、矛盾がないか確認する慎重さが求められます。
興味深いことに、バルベリトという別の悪魔は「人と悪魔が契約を交わす時、常に証人として現出する」地獄の祭祀長兼式武官とされています。ベリトとバルベリトは名前が似ていますが別個の存在であり、契約における役割も異なります。ベリトは契約相手そのものであり、バルベリトは契約の証人という位置づけです。
ベリトという悪魔の最も興味深い点は、その極端な二面性にあります。一方では錬金術や予言という非常に価値ある能力を持ち、他方では嘘をつく信用できない性質を持つ。この矛盾した特徴は、悪魔学における重要なテーマを示唆しています。
中世から近世ヨーロッパの悪魔学において、悪魔は単なる邪悪な存在ではなく、人間の欲望を映す鏡のような役割を果たしていました。ベリトが提供する黄金への変換能力は、まさに人間の物質的欲望の象徴です。予言の力は、未来を知りたいという人間の根源的な欲求を表しています。
しかし、これらの能力が嘘と結びついているという設定は、欲望の危険性を警告しているとも解釈できます。富や知識を簡単に得られると思わせながら、実際には真実が保証されていない。この構造は、安易な利益追求や知識欲の危険性を寓話的に表現しているのかもしれません。
「パタリロ!」における「百万に一度の真実」という解釈は、この二面性を巧みに活用した例です。普段は嘘をつくからこそ、たまに言う真実が強力な武器になる。この逆説的な力の使い方は、情報の信頼性と戦略性について考えさせられる設定となっています。
また、ベリトが26の軍団を率いる公爵という高位の地位にあることも重要です。単なる小悪魔ではなく、地獄の階層構造において重要な位置を占める存在が、嘘つきという性質を持つ。これは権力と虚偽の関係性、あるいは権威への不信という、より深い社会批判的なメッセージを含んでいる可能性があります。
現代の創作物においてベリトが繰り返し取り上げられるのは、この複雑で矛盾した性格が、キャラクターとしての深みを生み出すからでしょう。単純な善悪では割り切れない、人間的とも言える複雑さを持った悪魔として、ベリトは今なお多くの物語で活躍し続けています。