ヴァッサゴは、中世の魔術書『ゴエティア』に記された「ソロモン72柱の悪魔」の一柱として知られる魔神です。序列第3位という上位に位置し、地獄の大公(君主)の爵位を持ち、26個の悪魔軍団を支配する強大な力を持っています。
参考)ソロモン72柱の悪魔 地獄の大公ヴァッサーゴについて分かりや…
最大の特徴は、悪魔でありながら善良で温和な性格を持つという点です。『ゴエティア』では序列第2位のアガレスと同じような性質を持つとされていますが、ヴァッサゴはアガレスよりもさらに良い性質で召喚者の前に現れると記されています。この温和な性格から、知識欲の強い魔術師に好んで召喚される存在となっています。
参考)ウァサゴ - Wikipedia
ヴァッサゴに対応する惑星は木星、星座は白羊宮(おひつじ座)とされ、彼の神聖な金属は鉛であると伝承されています。また、召喚の際には日曜日が最も適しているとされ、太陽の持つ啓発と明晰さが彼の影響領域と調和すると考えられています。
参考)Reddit - The heart of the inte…
ヴァッサゴの主な能力は、時間を超越した知識の提供です。過去・現在・未来すべての出来事について詳しく答えることができ、特に過去の出来事やこれから起こる未来の事柄を術者に告げる力を持っています。この予知能力により、占い師的な立場で多くの魔術文献に名を挙げられています。
参考)第3の侯爵 ウァサゴ(Vassago)解説/召喚 「未来予知…
もう一つの重要な能力は、隠されたものや失われたものすべてを発見する力です。紛失物を見つけ出すこの能力は、悪魔の中では比較的控えめなものですが、実用性が高く評価されています。さらに、女性の愛を煽動する能力も持つとされています。
参考)悪魔ウァサゴの能力
ヴァッサゴを召喚したい者は、彼の印章(シジル)を羊皮紙または金属板に書いて身につけておかなければなりません。これを怠った場合、ヴァッサゴを従えることはできず、その恩恵を受けられないとされています。召喚の儀式では、3日間の断食と瞑想によって内面と外面を清め、日曜日の正午にヴァッサゴのシジルを凝視しながら彼のエン(「Keyan vefa jedan tasa Vassago」)を唱えることが推奨されています。
ゲーティアの詳細な召喚方法や呪文については、こちらの魔術書解説サイトが参考になります
ヴァッサゴの外見については、『ゴエティア』に詳しい描写がなく、その姿は謎に包まれています。このため、ヴァッサゴは他の悪魔と比べてあまり描かれることのない存在となっています。
参考)第13回 ソロモンの悪魔3 ヴァッサゴ - マガマガ博覧会
しかし、アガレスと深い関係があるとされることから、一般的にはアガレスと同じ見た目をしていると解釈されることが多くなっています。19世紀フランスの文筆家コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』によれば、アガレスは痩せ衰えた老紳士の姿で、手に大鷹をとまらせ、ワニに乗って現れるとされています。そのため、ヴァッサゴも同様にワニに跨り、烏を共にして出現する骸骨のような老人の姿で描かれることがあります。
参考)https://www.raitonoveru.jp/howto/87a.html
別の伝承では、黄金の腕輪を付け、赤い服を着た落ち着きのない男性の姿で現れるとも言われています。また、フードを被り正体のわからない様子を表現した神秘的なデザインで描かれることもあり、その謎めいた存在感が強調されています。
参考)Daily Graphic
興味深いことに、「完成、休息、賢明」といった概念と結びつけられることもあり、盲目でその瞳は常に他の世界を見ているという描写も存在します。
参考)http://www.st-page.com/sisetu/beno/datensi/Vassago3.htm
ヴァッサゴという名前は、様々な創作作品に登場しています。最も有名なのは、川原礫によるライトノベル『ソードアート・オンライン』(SAO)のキャラクター「ヴァサゴ・カザルス」でしょう。彼はアメリカの大手企業グロージェンの汚れ仕事専門の契約社員で、実はSAO事件に自ら途中参加したプロの暗殺者という過去を持っています。作中では暗黒騎士のスーパーアカウントを使用してアンダーワールドで暗躍し、最終的にはSAO時代の最悪の殺人鬼PoH(ポー)として正体を現します。この名前は、ソロモン72柱の悪魔ヴァッサゴに由来しており、母からの愛情がないことの証として名付けられたという設定になっています。
参考)PoH(SAO) - アニヲタWiki(仮) - atwik…
大高忍による漫画『マギ』にも、ジンの一柱として「ヴァッサゴ」が登場します。シャルルカンの兄であるコーエン帝国の人物がジン「ヴァッサゴ」の金属器を持ち、魔装を使いこなす設定となっています。ただし、作中では詳細な登場シーンは確認されていません。
参考)ジン - マギwiki - atwiki(アットウィキ)
ゲーム作品では、『ファイナルファンタジーIII』や『ファイナルファンタジーXI』に敵モンスターとして登場しています。FF3では「バッサゴ」という名前で、やせ衰えた老人の姿をし、鰐にまたがって鳥を伴って現れる設定が元ネタに忠実に再現されています。FF11では大トカゲの頭にコウモリの羽、全身にコケが生えた姿で、分列して増える特徴を持つキャラクターとして設定され、大きな鎌を武器に持つデザインとなっています。
参考)https://god-bird.net/fantasie/ff3mon.html
カードゲーム『シャドウバース』の拡張パック「時空転生」にも、ヴァンパイアクラスのフォロワーカード「ヴァッサゴ」が登場しており、ソロモン72柱シリーズの一環として実装されています。
参考)Re:天才シャドバプレイヤーなら全カード語れる説第六百八十五…
アメリカのインディーズアニメ作品『HELLUVA BOSS』にも、親王(Prince)の階級を持つ悪魔としてVassagoが登場しており、現代の創作においても継続的に取り上げられています。
参考)https://dic.pixiv.net/a/Vassago
ヴァッサゴを語る上で避けて通れないのが、序列第2位の悪魔アガレスとの関係です。『ゴエティア』では「ヴァッサゴの性質はアガレスと同一」と明記されていますが、同時に「アガレスよりも良い性質」であるとも記されています。
参考)ウァサゴとは - わかりやすく解説 Weblio辞書
この類似性について、研究者の間では様々な解釈が存在します。最も有力な説は、ソロモン72柱という「キリの良い数字」に合わせるために、似たような悪魔を複数作ったというものです。実際、ソロモン72柱の悪魔の中には、外見や能力がほとんど同じ、または類似した悪魔が何組も記載されています。つまり、数合わせのために作られた可能性があるということです。
興味深いことに、ヴァッサゴは『ゴエティア』以外の魔術文献にはほとんど登場しません。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』や、『ゴエティア』と関係の深い魔導書『悪魔の偽王国』にもヴァッサゴの項目は存在しないのです。ソロモン72柱の中で『ゴエティア』のみに登場する悪魔は、ヴァッサゴの他に序列第70のセーレ、序列第71のダンタリオン、序列第72のアンドロマリウスの計4柱とされています。
このような文献上の特異性から、ヴァッサゴはアガレスの別名または同一の存在である可能性も指摘されています。しかし、両者の性質の違い(ヴァッサゴの方がより善良)が明記されていることから、別個の存在として扱われることが一般的です。
ヴァッサゴの持つ予知能力と善良な性質は、占いや魔術的な実践において特別な位置を占めています。過去・現在・未来を見通す能力は、タロット占いやルーン占いなど様々な占術の理論的基盤と共通する要素を持っています。
現代のオカルト実践者の中には、ヴァッサゴの印章をペンダントとして身につけることで、失われたものを見つける力や直感力を高めようとする人々もいます。また、重要な決断を下す前にヴァッサゴに導きを求める儀式を行う魔術師も存在します。
参考)https://www.etsy.com/jp/listing/1406509565/prince-vassago-goetic-sigil-information
ヴァッサゴを占いに活用する際の重要なポイントは、彼が「善良な性質」を持つという点です。多くの悪魔が嘘つきで信用できないとされる中、ヴァッサゴは比較的誠実に質問に答えてくれる存在として知られています。そのため、真摯に知識を求める者に対しては、有益な情報を提供してくれると信じられています。
隠されたものや失われたものを発見する能力は、単なる物理的な紛失物探しだけでなく、忘れられた記憶や見失った人生の目的を再発見する象徴的な意味でも解釈されることがあります。この能力は、自己探求や精神的成長を目指す現代のスピリチュアル実践においても応用されています。
参考)ヴァッサゴ:ファンタジィ事典
ただし、悪魔召喚は伝統的に危険を伴うものとされており、適切な知識と準備なしに行うべきではないとされています。『ゴエティア』では「神の名前と力によって悪魔を呼び出し、拘束し、自在に使役する」という術者が優位な立場に立つ形式が説明されていますが、これには専門的な知識と儀式の正確な実行が必要です。
参考)『ゲーティア : ソロモン王の小さな鍵』について
📊 ヴァッサゴの基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | ヴァッサゴ、ヴァサゴ、ウァサゴ(Vassago) |
| 序列 | 第3位 |
| 爵位 | 地獄の大公(君主) |
| 支配軍団 | 26個軍団 |
| 対応惑星 | 木星 |
| 対応星座 | 白羊宮(おひつじ座) |
| 神聖な金属 | 鉛 |
| 主な能力 | 過去・現在・未来の予知、失われたものの発見、女性の愛の煽動 |
| 性質 | 善良で温和 |
| 出典文献 | 『ゴエティア』(レメゲトンの第1書) |
このように、ヴァッサゴはソロモン72柱の悪魔の中でも特に興味深い存在です。その善良な性質と予知能力は、悪魔というイメージとは異なる独特の魅力を持っており、中世から現代に至るまで多くの魔術師や創作者たちの関心を引きつけ続けています。占いや自己探求のシンボルとして、あるいは創作作品のキャラクターとして、ヴァッサゴは今後も様々な形で人々の想像力を刺激していくことでしょう。