ガミジン(別名:サミジナ、ガミュギュン)は、17世紀の魔術書『ゴエティア』に記載されたソロモン72柱の悪魔の中で、序列4番目に位置する強力な魔神です。地獄における階級は「侯爵(Marquis)」で、30の軍団を指揮する有力な存在とされています。
『ゴエティア』は作者不明のグリモワール『レメゲトン』の第一書であり、古代イスラエルの賢王ソロモンが都市建造のために使役した72体の悪魔たちについて記されています。これらの悪魔は、ソロモン王によって真鍮の壺に封印され、「バビロンの穴」と呼ばれる湖に沈められたという伝説が残されています。
ガミジンの名前は『エノク書』にも見られる古い由来を持ち、長い歴史を通じて語り継がれてきた悪魔です。召喚者に対して比較的友好的な態度を示すことでも知られ、適切な儀式を行えば要求に応じて様々な知識や力を授けてくれると伝えられています。
ガミジンが召喚された際の最も特徴的な姿は、小さな白い馬、あるいはロバの形態です。この動物的な姿は他のソロモン72柱の悪魔と比較しても独特で、威圧的というよりは穏やかな印象を与えます。
召喚者が命じると、ガミジンは人間の姿へと変身する能力を持っています。この変身能力は、悪魔との対話をより円滑に進めるために重要な特性です。人間の姿になった際の外見については文献によって詳細が異なりますが、知的で落ち着いた雰囲気を持つ人物として描かれることが多いようです。
馬やロバという姿は、古代において重要な移動手段であり、知識や情報を運ぶ存在の象徴でもありました。ガミジンの外見は、彼が持つ「知識を授ける」という能力と深く結びついていると考えられます。また、白い色は純粋さや神聖さを表すこともあり、元々天使であったという伝承とも整合性があります。
ガミジンの最も注目すべき能力は、死者の魂を操るネクロマンシー(死霊術)です。彼は罪のうちに死んだ者の魂を呼び出し、召喚者の前に現出させることができます。この能力により、死者から情報を得たり、過去の秘密を明らかにしたりすることが可能とされています。
死霊術は古代から中世にかけて、最も危険で禁忌とされた魔術の一つでした。しかしガミジンは、この力を比較的安全に扱える存在として知られています。召喚された魂は召喚者に害を及ぼすことなく、質問に答えたり情報を提供したりすると言われています。
さらにガミジンは、水の中で死んだ者の魂にも干渉できるという特殊な能力を持っています。水死者の魂は通常、この世に留まりやすく扱いが難しいとされていますが、ガミジンはそのような霊魂も自在に操ることができるのです。
この死霊術の能力は、単に死者を呼び出すだけでなく、失われた知識や隠された真実を明らかにするという、より広範な情報収集の手段として機能します。
ガミジンのもう一つの重要な能力は、自由七科(リベラルアーツ)と呼ばれる学問の知識を授けることです。自由七科とは、中世ヨーロッパの大学で教えられた基礎教養科目で、以下の7つの学問から構成されています。
三学(トリヴィウム):言語系
四科(クワドリヴィウム):数学系
ガミジンはこれらすべての分野に精通しており、召喚者が望めばその知識を授けてくれます。特に論理的思考や科学的知識を求める者にとって、ガミジンは理想的な教師となる悪魔です。
古代ギリシア・ローマ時代から続くこの教養体系は、自由人にふさわしい知識として尊重されてきました。ガミジンが授ける知識は、単なる情報ではなく、物事を深く理解し論理的に考える能力そのものを向上させるとされています。
中世の学者や魔術師たちは、この能力を高く評価し、学問的な探求のためにガミジンを召喚することがあったと伝えられています。
ガミジンには「元は天使だった」という興味深い伝承があります。彼はかつてロシア地域を担当する穏和で親切な天使でしたが、ルシファーの反乱に加担して堕天し、悪魔となったとされています。
ルシファーの反乱とは、最高位の天使であったルシファーが神に反逆し、天界から追放された出来事を指します。この時、ルシファーに従った多くの天使たちも共に堕天し、悪魔となりました。『エノク書』などの外典文書には、200人もの天使が堕天したという記述があります。
ガミジンが元々穏和で親切な性格だったという点は注目に値します。堕天後も、彼は他の悪魔と比べて召喚者に対して友好的で協力的な態度を示すことが多いと言われています。この性格は、彼の天使時代の性質が今も残っているためかもしれません。
ロシア地域を担当していたという設定は、北方の寒冷な地域と彼の冷静で知的な性質との関連を示唆しています。天使時代の記憶や性質が、現在の彼の能力や性格に影響を与えていると考えられます。
この堕天使としての背景は、ガミジンをより複雑で魅力的な存在として描き出しています。
ガミジンは現代の様々なエンターテインメント作品に登場し、それぞれ独自の解釈で描かれています。
メギド72
スマートフォンRPG『メギド72』では、ガミジンは祖メギドの一人として登場します。序列4番の設定を保ちつつ、カウンタースタイルのファイタークラスとして実装されています。声優は矢野正明氏が担当しており、ソロモン72柱の悪魔全72体がキャラクター化されているこのゲームでは、ガミジンも重要な役割を果たしています。本作は堕天使や悪魔の設定を独自に解釈し、世界観を構築している点が特徴です。
女神転生シリーズ
『真・女神転生』や『デビルサマナー』などのシリーズでは、ガミジンは召喚可能な悪魔として登場します。悪魔合体システムを通じて仲間にすることができ、戦闘で活躍させることが可能です。シリーズを通じて、ソロモン72柱の悪魔たちは重要な存在として扱われています。
その他の作品
高橋邦子氏の作品『埼玉県川越市の怪談』にも、川越市在住の悪魔としてガミジンが登場します。こちらではゾンビのような外見をしていますが、性格は真面目で善人的に描かれており、原典の「穏和で親切」という性質が反映されています。
ガミジンを召喚するには、彼専用の印章(シジル)を用いた儀式が必要とされています。シジルとは、各悪魔固有の紋章であり、その悪魔と繋がるための鍵のような役割を果たします。
伝統的な召喚方法では、ガミジンのシジルを金属板に彫り込みます。侯爵の階級を持つガミジンは、月の惑星に対応しているため、使用する金属は銀(Silver)または銀色がかった土色の金属が適切とされています。このシジルは召喚儀式の際、術者の胸に胸飾り(ラーメン)として付けるか、あるいは召喚の三角形の中に置いて使用します。
簡易的な方法としては、未使用の羊皮紙に羽根ペンと銀色のインクでガミジンの紋章を描く方法もあります。この方法は金属加工の技術が必要ないため、より多くの人が実践可能です。
ただし、悪魔召喚は歴史的に危険な行為とされてきました。『ゴエティア』には適切な保護魔法円や神聖な名前を用いた制御方法が記されており、これらを守らずに召喚を試みることは極めて危険だと警告されています。現代では、これらの知識は文化的・学術的な興味の対象として研究されています。

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