アガレスはソロモン72柱の悪魔の中で序列第2位に位置する公爵(デューク)です。『悪魔の偽王国』では「首位の公爵(Dux primus)」と呼ばれ、31の軍団を率いる強大な力を持つ存在とされています。地獄の東方の勢力に属し、序列第1位のバエルと共に東方を支配する立場にあります。
18世紀の魔導書『大奥義書』においては、地獄の三大支配者であるルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに仕える宰相ルキフゲ・ロフォカレの配下として紹介されています。同じくルキフゲの配下には序列第1位のバエルと序列第5位のマルバスも含まれており、アガレスは地獄の階層構造において重要な位置を占めていることがわかります。
元々はキリスト教の天使階級において中位三隊に属する「力天使(ヴァーチャー)」であったとされ、堕天する前は揺るぎない不屈の精神を表す存在でした。この出自は他の多くの悪魔たちと共通しており、かつての天界における地位の高さを物語っています。
アガレスの外見は非常に独特で印象的です。『ゴエティア』や『悪魔の偽王国』によれば、穏やかな様子の白髪の老人として現れ、その手には大鷹(オオタカ)をとまらせています。さらに特徴的なのは、ワニに乗って召喚者の前に姿を現すという点です。
このワニに乗った老人という姿は、しばしば「マイルドな老紳士」と表現されることもあり、悪魔としては比較的穏やかな印象を与えます。ただし、その外見とは裏腹に、後述するように地震を引き起こし権威を破壊する恐ろしい力を秘めています。
アガレスを召喚し、その力を借りたい者は彼の印章(シジル)を羊皮紙または金属板に書いて身につけておかなければなりません。この印章を怠った場合、アガレスを従えることはできず、その恩恵を受けることもできないとされています。印章は召喚における重要な契約の証であり、悪魔との取引における必須の道具として機能します。
アガレスは複数の強力な能力を持つことで知られています。最も恐ろしい力は、霊的・世俗的両面における尊厳や気品を破壊する能力です。権威あるものを破滅させ、大地震を引き起こすことができるとされ、その破壊力は計り知れません。『ゴエティア』では、あらゆる物を破壊する地震を起こす力が明記されています。
言語に関する能力も顕著で、アガレスはあらゆる言語や言葉遣いをたちどころに習得させることができます。この能力は召喚者にとって非常に有益で、異国の地での交渉や学問において大きな助けとなるでしょう。博識な悪魔として知られるアガレスならではの恩恵といえます。
さらに注目すべき能力として、「たたずむ者を走り去らせる」「去った者(逃げ出した者など)を呼び戻す」という対照的な二つの力があります。逃亡者を呼び戻す力は、失われたものを取り戻す能力とも解釈され、単に人を呼び戻すだけでなく、失われた物事や機会を回復させる可能性も示唆されています。
『儀式魔術の書』では『地獄の語彙』という文献を参照し、アガレスが保護した人々の敵を退散させる力があるとも記されています。日本語圏では「変化の公爵」という異名で呼ばれることもあり、確立された力と強さ、希望の実現、労働の完成、闘争の成功をも支配するとされています。
アガレスは様々な創作物に登場しており、その中でも特に有名なのが大高忍による漫画『マギ』です。作中では煌帝国第一皇子・練紅炎が「不屈と創造の精霊(ジン)」として「アガレス」と契約しています。金属器は右肩の肩当であり、ワニのような鱗を持つ狼に似た獣のジンとして描かれています。
『マギ』におけるアガレスは力魔法を操り、大地を削り取る能力を持ちます。魔装すると悪魔のような巨大な片腕を持つ子供の姿になり、大地からマグマを隆起させて炎熱を吸収することで、事実上無制限に戦闘を行うことが可能です。この設定は原典の「地震を引き起こす力」を現代的に解釈したものといえるでしょう。
ゲーム『真・女神転生』シリーズにもアガレスは登場します。『真・女神転生II』や『真・女神転生if...』では、ワニに乗った姿で描かれていますが、原典にある鷹は省略されています。さらに古い『女神転生II』では老人のみの姿で表現されており、時代によって視覚的解釈が変化していることがわかります。
西尾維新の原作によるアニメ『魔入りました!入間くん』にも「アガレス・ピケロ」というキャラクターが登場します。こちらは悪魔そのものというより、アガレスの名を持つ悪魔の少年として描かれており、常に惰眠を貪る小柄な少年の姿をしています。その能力は大地を操る魔術で、巨大な城を作り出し補強する精度の高い防御魔術を使用します。
スマートフォンゲーム『メギド72』では、ソロモン王が伝説の指輪の力で従えるメギド(悪魔)の一体としてアガレスが実装されています。このゲームでは原典の『ゴエティア』を基にしたキャラクター設定がなされており、召喚時のボイスなども収録されています。
アガレスの最も古い記述は、1577年にヨーハン・ヴァイヤーが著した『悪魔の偽王国(De praestigiis daemonum)』に見られます。この書物は悪魔学の重要な文献であり、アガレスは「首位の公爵」として紹介されています。ヴァイヤーの記述が後の魔導書に大きな影響を与えました。
17世紀頃に成立したとされる中世の魔法書『レメゲトン』の第1部「ゴエティア」には、アガレスの詳細な召喚手順が記されています。「ゴエティア」はソロモン王が使役したという72匹の悪霊について、必要な呪文や魔法陣、それぞれの能力や紋章(シジル)、召喚に際しての注意事項などを具体的に記した実用的な魔導書です。
アーサー・E・ウェイトが編纂した『儀式魔術の書』においても、アガレスは重要な悪魔として取り上げられています。この書物では、アガレスがかつて力天使の階級に属していたという出自が明記されており、天使から悪魔への転落という神話的背景が補強されています。
異教の神がキリスト教によって悪魔と見なされた可能性も指摘されています。アガレスという名前や特徴的な姿(ワニに乗る老人)は、古代の異教信仰における神格が悪魔学に取り込まれた結果である可能性があり、復権することなく現在に至っているという説も存在します。この解釈は、多くのソロモン72柱の悪魔に共通する起源論として学術的にも注目されています。
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ソロモン72柱におけるアガレスの詳細な能力と階級について、魔導書の記述を基に解説されています。
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アガレスの印章(シジル)の描き方や召喚時の注意事項など、実践的な情報が詳しく記載されています。
アガレス:ファンタジィ事典
『ゴエティア』『大奥義書』など複数の魔導書におけるアガレスの記述を比較検証し、その能力の変遷を追っています。