バエルはソロモン72柱の悪魔の中で序列第1位に位置する最高位の魔王です。『ゴエティア』に記載された72人の悪魔の筆頭として、東方を支配し66の軍団を率いる「大いなる王」の称号を持っています。この序列第1位という位置づけは、バエルが悪魔の中でも特に重要視される存在であることを示しています。
参考)😈悪魔 緇劫茹hⅫ若鐔祉
興味深いことに、バエルの地位は文献によって異なる記述が見られます。18世紀の魔導書『大奥義書』では、地獄の三大支配者であるルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに仕える地獄の宰相ルキフゲ・ロフォカレの配下として紹介されています。この記述は『ゴエティア』の最高位の王という位置づけとは異なり、より複雑な地獄の階級構造を示唆しています。
参考)バエル、ゴエティア(ソロモンの小さな鍵)の悪魔。 - waq…
カバラの典籍『ゾーハル』では、バエルのランクは大天使ラファエルと同等の存在であるとされています。これは悪魔でありながら天使に匹敵する力を持つという、バエルの特異な地位を表しています。また、『大奥義書』では序列第2位のアガレスと序列第5位のマルバスも同じくルキフゲ・ロフォカレの配下として記載されており、バエルは複数の強力な悪魔を従える立場にあることが分かります。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%90%E3%82%A8%E3%83%AB
バエルの最も特徴的な外見は、猫、蛙(ヒキガエル)、人間の3つの頭を持つという異形の姿です。『地獄の辞典』(1818年コラン・ド・プランシー著)では、「ネコと王冠を被った人間とカエルの頭をもった蜘蛛」として描かれています。3つの頭は肩の部分で繋がっており、胴体部分は蜘蛛とも蠅ともつかない無数の足が生えている姿とされています。
参考)バエル - Wikipedia
召喚時の姿は状況によって変化するとされ、時には猫のような姿、時には蛙のような姿、時には人間の男性のような姿で現れることもあります。また、3つとも人の顔で現れる場合もあると記録されています。この変幻自在な姿は、バエルが持つ変身能力と関連していると考えられます。
参考)ソロモン72柱の悪魔 地獄の王族バエルについて分かりやすく記…
バエルの頭部に冠が描かれることが多いのは、彼が「王」の位を持つ悪魔であることを示すためです。蜘蛛の体という描写は、バエルが多くの軍団を操り、広範囲に影響力を持つ様子を象徴的に表現していると解釈されています。このような複数の生物を組み合わせた異形の姿は、グリモワールに登場する悪魔に共通する特徴でもあります。
参考)https://izfact.net/solomon/01_bael.html
バエルに祈りを捧げた者は、奸計(策略)に長ける能力を得られるとされています。この策略の才能は、法律関係の知識と密接に関連しており、バエルは法律に精通した悪魔として知られています。『ゴエティア』によれば、バエルはしわがれた声で話し、召喚者に知恵を与える力を持っています。
参考)【ソロモン72柱】ソロモン王に仕えた悪魔たち「バエル、アモン…
最も有名な能力は、召喚者を透明にする力です。この透明化の能力は、召喚されると必要に応じて発動され、召喚者が姿を隠す方法を授けてくれます。また、変身能力も授けられるとされ、召喚者は必要に応じて姿を変えることができるようになります。
参考)知っておきたいファンタジーの事 - ソロモン72柱の序列
バエルは戦闘にも長けた悪魔です。『悪魔の支配者について』という文献では、バエルは科学に精通した悪魔として記されており、『エスペリッツの本』では人気を獲る力を持つ王子とも表現されています。このように、バエルは知略、透明化、変身、戦闘、科学知識など、多岐にわたる能力を持つ万能型の悪魔と言えるでしょう。
バエルを召喚するには、『ゴエティア』に記載された複雑な儀式手順を踏む必要があります。まず魔法陣を床に描き、召喚者自身を保護する防御用の結界を作ります。この魔法陣はバエル専用のシジル(符号)を含む必要があり、正確に描かなければ儀式は成立しません。
参考)ゴエティア - Wikipedia
召喚儀式では、神聖な名前や祈りを用いてバエルの名を唱えます。『ゴエティア』の方法では、悪魔を召喚する前にあらかじめ対応する天使を呼び出し、デーモンが暴れないよう見張らせる手法が記されています。バエルが現れた後、召喚者は彼に対して命令を発し、情報の提供や特定のタスクの遂行を要求します。
参考)ファウストの悪魔ってどんなん?(ChatGPT)|よっしー@…
契約内容は召喚者の目的によって異なりますが、バエルとの契約では透明化の能力や知恵を授かることが主な目的とされます。儀式のすべてのステップは注意深く行う必要があり、ミスや不注意は危険な結果を引き起こす可能性があると警告されています。最後に、召喚者は特定の祈りや命令を用いてバエルを放逐し、元の領域に戻します。
このような召喚儀式は西洋魔術の伝統に基づいており、召喚(invocation)と喚起(evocation)という2つの異なる技法が存在します。召喚では霊的存在に呼びかけてその来臨を請うのに対し、喚起では命令して呼びつける形式となります。
参考)悪魔の召喚と心理学
バエルの起源は、古代カナン地方で信仰されていた豊穣と嵐の神「バアル」に遡ります。バアルは紀元前3000年頃から既に固有名詞として記録が残っており、シュメール期の遺跡であるアブ・サラビクの神々の中に登場しています。バアルは「主」を意味する言葉であり、カナン土着の嵐と豊穣の神ハダドと同一視されていました。
参考)悪魔バアル⇔豊穣の神バアルWITH柴犬
バアルは農作物の成長をもたらし、雨と嵐を操る神として、フェニキアやカナン地方の人々にとって生活の基盤となる存在でした。紀元前900年頃にはイスラエルにも信仰が浸透し、広い地域で様々な名を持つ神として習合されていきました。しかし、旧約聖書において異教の神として敵視され、バアル信仰は邪悪なものとして描かれるようになります。
参考)バアル、悪魔(ベルゼブブ)になった慈雨と豊穣の神 - waq…
ユダヤ教徒は自分たちの神への信仰を脅かす存在としてバアルを敵視し、邪悪な神であるという教えを広めました。この結果、バアルの名前を冠する多くの神々が悪魔として再解釈されるようになり、バエルもその一つとなったのです。士師記にはバアルの祭壇を破壊した士師ギデオンの記述があり、マタイによる福音書ではイエス・キリストが悪霊のかしらベエルゼブルの力を借りているとの嫌疑をかけられる場面が登場します。
参考)バアル - Wikipedia
キリスト教が広まる過程で、バアルは異教の邪神や悪魔として完全に定着しました。こうして、かつて豊穣と慈雨をもたらす至高の神として崇拝されていた存在が、グリモワールや悪魔学における地獄の王バエルへと変貌を遂げたのです。
バエルは現代の多くの創作作品に登場する人気の悪魔キャラクターです。『真・女神転生』シリーズでは、"魔王"種族の悪魔として登場し、シリーズで唯一、人・猫・蛙の頭と蜘蛛の胴体を持った正統派なデザインで描かれています。『真・女神転生Ⅱ』では"バエルの呪い"という要素が物語に関わっています。
参考)https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%90%E3%82%A8%E3%83%AB(%E5%A5%B3%E7%A5%9E%E8%BB%A2%E7%94%9F)
原作小説『デジタル・デビル・ストーリー』(1986年)から登場する最古参悪魔としても知られており、初代作品『デジタル・デビル物語 女神転生』から一貫して魔王種族として描かれています。ゲーム内では「地獄の東方」を支配し、「66ある軍団」を率いる大いなる悪魔王として設定されています。
参考)魔王
『パズル&ドラゴンズ』ではガチャ限定悪魔シリーズの光属性モンスターとして登場します。ベルゼブブとは別キャラクターとして分化されており、デザイン面でも独自の解釈が施されています。漫画作品では『天獄トラブルメイト』にて、善人すぎてヤバい悪魔・バエルという独特なキャラクター解釈で登場しています。
参考)バアル(悪魔) - アニヲタWiki(仮) - atwiki…
『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』では7大悪魔王としてベルゼバブが登場し、地獄の宰相として様々な奸計を巡らせる重要な役割を担っています。この作品ではバアル系統の悪魔が物語の核心に関わる設定となっており、ウリエルを堕天に追い込むなど重要な場面で活躍します。これらの作品を通じて、バエルは古代の神話的存在から現代のポップカルチャーまで幅広く影響を与え続けています。
参考)流動的な趣味日記 悪魔語り01 「バエル」
Wikipedia - バエル:ゴエティアにおけるバエルの詳細な記述と歴史的背景
waqwaq - バエル、ゴエティア(ソロモンの小さな鍵)の悪魔:バエルの特徴と能力、役割についての総合的な解説
Wikipedia - バアル:古代カナンの神バアルから悪魔バエルへの変遷過程