とびうお座は南天に位置する小さな星座で、16世紀以降に作られた新しい星座のため、古代ギリシャ神話のような伝説は伝わっていません。しかし、その誕生背景には大航海時代の冒険と発見のドラマがあり、構成する星々にはそれぞれ興味深い特徴があります。
参考)とびうお座ってどんな星座?【神話も紹介】
この星座は4等星以下の暗い星で構成されているため、見つけるのは容易ではありませんが、りゅうこつ座の1等星カノープスを目印にすることで位置を特定できます。日本のほとんどの地域からは観測できませんが、南半球では春の時期に美しい姿を見せてくれます。
参考)とびうお座|やさしい88星座図鑑
とびうお座には古代からの神話が存在しません。これは星座が16世紀末から17世紀初頭という比較的最近になって設定されたためです。
参考)とびうお座とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書
星座の誕生には航海者たちの観測が大きく関わっています。1595年から1597年にかけて東インド航海を行ったオランダの航海士ペーテル・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンが、南半球の星々を観測しました。彼らが残した記録を元に、オランダの天文学者ペトルス・プランシウスが1597年に作成した天球儀に初めてとびうおの姿が描かれました。
参考)とびうお座 - Wikipedia
その後、ドイツの法律家で天文学者のヨハン・バイエルが1603年に出版した星図『ウラノメトリア』で世に知られるようになりました。当初は「Piscis Volans(飛ぶ魚)」という名称でしたが、1845年にフランシス・ベイリーが刊行したBAC星表で「Piscis(魚)」が省略され、現在の「Volans(飛ぶ)」という学名が採用されました。
大航海時代の船乗りたちにとって、海面を滑空するとびうおは珍しく印象的な光景でした。彼らはその姿を星座として天に残したのです。星座絵ではアルゴ船(現在のりゅうこつ座、ほ座、とも座、らしんばん座に分割)の船側でたわむれるとびうおとして描かれ、隣にあるかじき座(シイラ)に狙われているかのような構図になっていることもあります。
参考)星座八十八夜 #71 空飛ぶ魚が星空に飛び出した「とびうお座…
とびうお座は4等星以下の暗い星で構成されており、全体的に目立たない星座です。しかし、その中にもいくつか注目すべき恒星があります。
参考)http://yumis.net/space/star/south/vol.htm
主要な恒星の一覧
星座の形状は、平たい三角形がとびうおの胴体を表し、その一角から3本の線が伸びて長い胸びれと尾びれを表現しています。この形は、まさに海面を滑空するとびうおの姿そのものです。
星座絵では、とびうお座はりゅうこつ座の一部に突き刺さるような配置になっており、この独特な位置関係が星座を見つける際の手がかりとなります。
とびうお座γ星は、この星座で最も明るく見える恒星であり、実は美しい二重星でもあります。天の南極からおよそ20度の位置にあり、大マゼラン雲から東南東におよそ9度のところに見えます。
参考)とびうお座ガンマ星とは - わかりやすく解説 Weblio辞…
とびうお座γ星の構成
とびうお座γ星は、肉眼では1つの星に見えますが、望遠鏡で観測すると2つの恒星からなる美しい二重星であることがわかります。
| 恒星名 | 等級 | 色 | スペクトル型 | 距離 |
|---|---|---|---|---|
| とびうお座γ2星 | 3.78等 | 黄金色 | K0 III(K型巨星) | 約133光年 |
| とびうお座γ1星 | 5.69等 | 白~黄白色 | F2 V(F型主系列星) | 約143光年 |
| 合成等級 | 3.6等 | - |
2つの恒星は離角が14秒程度離れており、小型の望遠鏡できれいに分解して観測できます。明るい方のγ2星は黄金色、暗い方のγ1星は白ないし黄白色に輝き、色のコントラストが美しい二重星として知られています。
γ2星は表面温度が約4,900Kの橙色巨星で、光度は太陽の約59倍もあります。一方、γ1星は表面温度が約6,500Kの主系列星で、光度は太陽の約10倍です。
この2つの恒星は固有運動が共通することから連星である可能性が指摘されていますが、年周視差の差を考慮すると実際の距離が2.7パーセク(約8.8光年)にもなる可能性があり、連星ではない可能性も残されています。この謎めいた関係性が、天文学者たちの関心を引き続けています。
また、とびうお座γ星は19世紀にベンジャミン・グールドによって光度変化の可能性が指摘されましたが、その後は変光が観測されず、確定した変光星にはなっていません。
とびうお座は南天の星座で、日本のほとんどの地域からは観測できません。天の南極近くに位置しているため、星の一部すら見ることができない地域がほとんどです。
観測に適した条件
とびうお座を見つけるには、まずりゅうこつ座の1等星カノープスを探すことが重要です。カノープスは全天で2番目に明るい恒星なので、南半球では非常に目立ちます。カノープスから南側へ視線を移していくと、とびうお座の星々を見つけることができます。
もう一つの目印は大マゼラン雲です。大マゼラン雲は肉眼でも見える銀河で、その東南東におよそ9度のところにとびうお座γ星が位置しています。大マゼラン雲は南半球の夜空では非常に印象的な天体なので、これを基準にすると位置を特定しやすくなります。
参考)南半球の星座「とびうお座」を紹介します。
とびうお座の周囲には、りゅうこつ座、とも座、がか座、ほ座、らしんばん座、かじき座、カメレオン座、はちぶんぎ座、ふうちょう座など、南天特有の星座が取り囲んでいます。この一帯は「空の海」と呼ばれることもあり、航海に関連する星座が多く配置されています。
とびうお座の近くには、南半球の夜空で最も印象的な天体の一つである大マゼラン雲が位置しています。この位置関係を理解することで、とびうお座の観測がより楽しくなります。
大マゼラン雲は、16世紀の探検家フェルディナント・マゼランの航海中に観測された銀河で、その名が付けられました。肉眼でも雲のような姿で確認できる大型の不規則銀河で、天の川銀河の伴銀河として知られています。
参考)かじき座とは?見つけ方や見どころ
とびうお座の観測を計画する際、大マゼラン雲は非常に有用な目印となります。大マゼラン雲の東南東約9度の位置にとびうお座γ星が輝いており、この関係を覚えておくことで、暗い星座であるとびうお座も見つけやすくなります。
観測時の楽しみ方
大マゼラン雲内部には、NGC2070(タランチュラ星雲または毒グモ星雲)という美しい散光星雲があり、望遠鏡で観測すると万華鏡のような美しさを見せてくれます。南半球への旅行の際には、とびうお座の観測と合わせて、ぜひこの壮大な天体も楽しんでください。
とびうお座は概略位置が赤経7h40m、赤緯-69°で、面積は約141平方度です。全天88星座の中では76番目の大きさと小さな星座ですが、その控えめな輝きの中に大航海時代の冒険者たちの夢と発見の記憶が刻まれています。
アストロアーツの「星座八十八夜」では、とびうお座の詳しい解説と美しい星図が掲載されています。南天の星座を学ぶ際の参考になります。