カメレオン座を構成する星々は、ほとんどが4等星と5等星という暗めの恒星で形作られています。明るい恒星はありませんが、特徴的な形状をしているため見つけやすい星座です。主要な星には以下のようなものがあります。
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α(アルファ)星の特徴
カメレオン座で最も明るい恒星は、α(アルファ)星で視等級4.0等です。この星は薄黄色をした主系列星で、スペクトル分類はF5Vとなっています。星座絵ではカメレオンのしっぽの位置に配置されており、地球からの距離は約63.8光年です。カメレオン座の恒星には固有名がなく、α星にも特別な名前は付けられていません。視線速度は-13.40 km/sで、わずかに太陽系に近づいている星です。
参考)カメレオン座アルファ星 - Wikipedia
δ(デルタ)星の二重星
カメレオンの後ろ足に位置するδ(デルタ)星は、2つの星が仲良く並んだ二重星です。5.4等星と4.4等星という決して明るくない星ですが、7×50の双眼鏡で観測すると2つの星があることがしっかりと確認できます。さらに望遠鏡を使用すれば、それぞれの星の色の違いまで見ることができる興味深い天体です。この二重星は、カメレオン座の観測における見どころの一つとなっています。
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星座全体の構成
カメレオン座は約20個の肉眼星から構成されており、その形は「つぶれたひし形」や「尖った菱形」と表現されることが多いです。暗い星ばかりですが、この特徴的な形状のおかげで探すことはそれほど難しくありません。カメレオン座の概略面積は132平方度で、全88星座の中で79位の大きさです。4月28日に20時南中を迎えますが、日本からは一切見ることができない南天の星座です。
カメレオン座の歴史は、16世紀末の大航海時代に遡ります。この星座は、1595年から1597年にかけての東インド航海でオランダの航海士ペーテル・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンが南天の星々を観測した記録が起源です。
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プランシウスによる最初の記録
ケイセルとデ・ハウトマンの観測記録を元に、フランドル生まれのオランダの天文学者ペトルス・プランシウスが、オランダの天文学者ヨドクス・ホンディウスと協力して製作した天球儀に、カメレオンの姿を描きました。これは1598年のことで、プランシウスはラテン語で「Chamaeleon」という星座名を記し、「ケイセルとホウトマンの12星座」のうちの1つとして天球儀に記録しました。このとき、カメレオンのモチーフは東インド航海の際に立ち寄ったマダガスカル島で見たものと考えられています。
バイエルのウラノメトリアで世界へ
1603年、ドイツのヨハン・バイエルが出版した星図書『ウラノメトリア』に、カメレオン座が記載されたことで世間に広く知られるようになりました。『ウラノメトリア』は全天を包括した最初の星図書で、プトレマイオスの48星座に南の星座12個を追加し、全天1709星の星を収録していました。星座絵を含む星の描画ならびに彫金は、アレクサンダー・マイヤーが担当しました。バイエルが新たに設定した星座と誤解されることがありますが、実際はプランシウスの天球儀が先行しており、バイエルはこれを自身の星図書に採用した形です。
参考)ウラノメトリア - Wikipedia
南半球探検と新星座の誕生
カメレオン座が設定された背景には、ヨーロッパの航海者たちが南半球に進出し、それまで知られていなかった南天の星々を観測できるようになったことがあります。北半球では見ることのできない天の南極周辺の星々を使って、航海に役立つ星座が必要とされました。カメレオンは、熱帯のジャングルに住むトカゲの一種で、南ヨーロッパ、アフリカ、インドなどに生息していたため、夜空を見て連想した船乗りたちが名付けたという説もありますが、実際のところは明確にわかっていません。
参考)https://space-park.jp/events/tenmon/2003/0527/index.htm
ウラノメトリアの詳細な歴史と構成、バイエルによる星座の設定方法について解説しています。
カメレオン座の近くには、興味深い位置関係にある「はえ座」という星座があります。星座絵では、カメレオンが獲物のハエを狙っているかのように配置されており、まるで物語があるかのように感じられる配置です。
舌先に位置するはえ座
カメレオン座の舌先には、カメレオンの大好きな「ハエ(蠅)」を表したはえ座が設定されています。2つの星座の位置関係は、「カメレオンが飛び回るハエに狙いを定めて、今まさに舌で巻き取ろうとしている」様子に見えます。とがった5角形の方がカメレオン座の形を、矢印のような形の方がはえ座の形を表しており、実際の夜空での位置関係もこのようになっています。
参考)【第二十四夜】 ★『カメレオン座』と『はえ座』|家庭教師のフ…
遊び心か偶然か
しかし、これらの2つの星座が本当に「カメレオンの狩りの瞬間」を描写したものであるか否かは、はっきりとしていません。カメレオン座の存在とは全く別の理由から、はえ座が作られたという可能性も考えられます。実際、天文学者のバイエルは「はえ座」に、ハエではなくミツバチの姿を連想していたことが分かっています。カメレオン座の設定理由も、はえ座との関係も、設定に関わった人たちが既に亡くなっているため、真相は永久に分からないでしょう。それでも、この配置は私たちの想像力を刺激してくれる興味深いものです。
南半球の星座の特徴
文明が北半球で発展した歴史から、南半球の星座には神話がないものも多くあります。カメレオン座にも、はえ座にも神話はありませんが、この絶妙な位置関係は、神話がない新しい星座に込められた、ちょっとした遊び心なのかもしれません。「本当にカメレオンのエサにするためにはえ座にしたのか」は残念ながら分かりませんが、想像力全開で夜空を眺めることができる星座の組み合わせです。
カメレオン座は南天の星座であるため、観測できる地域が限られています。天の南極の近くに位置しており、日本国内からは一切見ることができません。
参考)カメレオン座 - Wikipedia
観測可能な地域と時期
カメレオン座を観測するためには、南半球の国々まで足を延ばす必要があります。オーストラリアやニュージーランドなどの天の南極に近いところにある地域では、年間を通してカメレオン座を見ることができます。春の始まり頃、日本の南の空の低い位置ではりゅうこつ座を目にすることができますが、カメレオン座はそのずっと南側にあります。南半球では4月下旬が観測に適した時期で、20時南中は4月28日です。
星座の見つけ方
カメレオン座は、みなみじゅうじ座と大マゼラン雲の間辺りに位置しています。みなみじゅうじ座の南、とびうお座とはちぶんぎ座、そしてはえ座に囲まれたエリアに配置されています。具体的には、1等星りゅうこつ座α(アルファ)星の「カノープス」と1等星ケンタウルス座α(アルファ)星の「リギルケンタウルス」という2つの1等星の間の南側に位置しており、この2つの明るい星を目印にすると探しやすくなります。カメレオン座の星々は暗い星ばかりですが、「つぶれたひし形」という特徴的な形をしているため、探すことはそれほど難しくはありません。
観測のポイント
カメレオン座を構成する星は、主に4等星と5等星の暗い星です。そのため、都市の明るい場所では観測が困難で、できるだけ暗い夜空の場所で観測することが推奨されます。特にδ(デルタ)星の二重星を観測するには、7×50の双眼鏡があると2つの星が分離して見え、望遠鏡を使えばそれぞれの星の色の違いまで確認できます。また、カメレオン座の近くには天の南極も確認できるため、南天の星座観測の基準点としても利用できます。
カメレオン座の方向には、太陽系に比較的近い星形成領域があり、興味深い天体が観測されています。特に注目されるのが「カメレオン座赤外星雲」と呼ばれる反射星雲です。
参考)若き星が照らす幻想的な星雲、南天のカメレオン座で輝く“片翼の…
カメレオン座赤外星雲の特徴
カメレオン座の方向にある反射星雲「カメレオン座赤外星雲(Chamaeleon Infrared Nebula)」は、人の目で見える可視光線だけでなく赤外線の波長の一部でも明るいことから、このように名付けられました。この星雲は、太陽系に比較的近い星形成領域である暗黒星雲「カメレオン座I」の中心付近にあります。画像に向かって左側にある蝶の羽のような形をした部分が特に明るく見えることから、米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)では、星雲の姿を「One-Winged Butterfly(片翼の蝶)」と表現しています。
星形成領域としてのカメレオン座暗黒星雲
カメレオン座の暗黒星雲は、距離が160-180pc(パーセク)で、総質量は約5000太陽質量です。主な3つの雲、カメレオン座I(Cha I)、II(Cha II)、III(Cha III)は、数平方度の角度サイズを持ち、最大減光量はA_V=5-10です。これらの雲の中で最も多くの星形成が起こっているのはCha Iで、残りはCha IIで発生しています。Cha Iの現在の天体カタログには237個の既知のメンバーが含まれており、そのうち33個は褐色矮星を示すスペクトル型(M6以上)を持っています。
参考)http://arxiv.org/pdf/0808.3207.pdf
ハービッグ・ハロー天体の発見
カメレオン座赤外星雲では、若い星のジェットに沿うような場所でハービッグ・ハロー天体が見つかっています。羽根の付け根に近い明るい点は、太陽よりも軽い若くて冷たい星で、この星が大量のガスを噴き出し、星雲の中を高速で突き抜けてトンネルのような空間を形成しています。星から放出された高速ガスが星雲の低速部分や近くのガス雲に激しくぶつかる場所では、HH909Aと呼ばれる赤いハービッグ・ハロー天体が光っています。これらの天体は、赤ちゃん星の近くでよく見られる明るい星雲のかたまりで、ガスの衝突によって生じた現象です。
参考)https://www.spacescoop.org/ja/scoops/2125/chi-chiyanxing-wochi-tsuyu-zhou-nochiyouchiyou/
カメレオン座赤外星雲の美しい画像と星形成活動の詳細な解説があります。
カメレオン座は16世紀以降に新しく設定された星座であるため、古代ギリシャ神話のような神話や伝説は伝わっていません。これは、カメレオン座だけでなく、多くの南天の星座に共通する特徴です。
新しい星座が生まれた背景
古代から中世にかけて、ヨーロッパや中東の文明圏では、主に北半球の星座が観測され、神話が作られていました。しかし、16世紀の大航海時代になると、ヨーロッパの探検家や航海士たちが南半球に進出し、それまで知られていなかった南天の星々を観測できるようになりました。ペーテル・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンが1595年から1597年にかけての東インド航海で残した観測記録が、カメレオン座誕生の基礎となっています。
なぜカメレオンと名付けられたのか
カメレオンは、熱帯のジャングルに住むトカゲの一種で、ヨーロッパでは非常に珍しい生物でした。それにもかかわらず星座に採用されたのは、オランダの探検家ハウトマンと航海士ケイザーが、航海中に立ち寄ったマダガスカル島で見かけた不思議な生き物=カメレオンの姿を、夜空の星々に重ねたのではないかと考えられています。南ヨーロッパ、アフリカ、インドなどにカメレオンが生息していたため、夜空を見て連想した船乗りたちが名付けたという説もありますが、実際のところは明確にわかっていません。
近代星座の特徴
17世紀の天文学者ガリレオ・ガリレイにより望遠鏡が発明されると、暗い星まで観測できるようになり、今までどの星座にも属していなかった星々を使って新しい星座が次々と作られていきました。これらの新しい星座は、実用的な航海の目的や、科学的な観測の必要性から設定されたものが多く、神話的な背景よりも観測のしやすさや位置関係が重視されました。カメレオン座も、そうした時代背景の中で誕生した星座の一つです。プランシウスやバイエルといった天文学者たちは、南天の星々を体系的に整理し、航海や天文観測に役立つ星図を作成することに注力していました。
参考)https://ryutao.main.jp/mythology.html