アストロアーツは日本を代表する天文情報サイトとして、彗星の発見から観測条件まで詳細な情報を提供しています。2025年には史上3例目の恒星間天体「3I/アトラス彗星」が発見され、直径20km規模という過去最大級の恒星間天体として大きな注目を集めました。離心率が6を超える軌道から明らかに太陽系外からの訪問者であることが判明し、9月中旬ごろまで宵の空で約14等、11月中旬ごろからは明け方の空で12~13等での観測が見込まれています。
2024年10月には紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)が4等前後まで明るくなり、肉眼でも観測可能なレベルに達しました。この彗星は2023年1月に中国の紫金山天文台と南アフリカのアトラス望遠鏡によって発見された非周期彗星で、双眼鏡はもちろん条件の良い空では肉眼でも見える明るさとなりました。アストロアーツでは位置確認のための星図や観測好機のタイミングを詳しく解説し、天体写真ギャラリーでは多くの観測者が撮影した美しい画像が公開されています。
2025年10月にはレモン彗星(C/2025 A6)が話題となり、米アリゾナ州のレモン山天文台で1月に発見された後、8月中旬に急増光して観測可能となりました。最も明るい時期には4等前後に達し、10月21日に地球と最接近、11月8日に太陽と最接近するタイミングで、夕方から宵の西~北西の空に双眼鏡で観察できる条件が整いました。アストロアーツではライブ配信も実施し、望遠鏡や高感度カメラを用いた観測の様子を「ステラナビゲータ12」によるシミュレーション映像とともに紹介しました。
彗星観測において最も重要なのは、太陽との位置関係と明るさの変化を正確に把握することです。明るい彗星は太陽に接近するタイミングで最も輝きを増すため、夕方の西空または明け方の東空という限られた時間帯での観測となります。彗星は日に日に位置を変えるため、事前の情報収集と観測計画が欠かせません。
彗星の明るさは「等級」で表され、数字が小さいほど明るく見えます。4等級前後であれば双眼鏡で十分に観察でき、条件が良ければ肉眼でも確認できる可能性があります。ただし恒星と異なり彗星はぼんやりとした光り方をするため、同じ等級でも恒星より暗く感じられることが多く、実際の観測では予想よりやや暗めに見える傾向があります。アストロアーツでは各彗星の明るさ予測をCBET(Central Bureau Electronic Telegram)などの観測データに基づいて掲載しており、観測者はこれを参考に適切な機材と観測場所を選定できます。
観測好機を逃さないためには月齢のチェックも重要です。満月前後は月明かりが強く暗い天体の観測には不向きですが、新月前後や月の出前・月の入り後は空が暗く彗星観測に最適な条件となります。例えば2020年4月のアトラス彗星では、8日が満月、23日が新月だったため、月の後半が特に観察好機と案内されました。また彗星と太陽の距離が近すぎる時期は太陽の光に隠されて観測できないため、近日点通過の前後数週間が実質的な観測期間となります。
彗星の天体写真撮影では、観測と同様に事前の情報収集と撮影場所の選定が成功の鍵となります。彗星は夕方の西空や明け方の東空の地平線近くに現れることが多いため、西や東方向の視界が開けた場所を選ぶ必要があります。撮影可能な時間は彗星が沈むまで、または太陽が出るまでの限られた時間しかないため、手際よく機材をセットして撮影に臨むことが求められます。
最も簡単な撮影方法は、広角レンズを付けたデジタル一眼レフカメラをカメラ三脚に固定する「固定撮影」です。この方法では彗星と風景を一緒に印象的に撮影でき、初心者でも取り組みやすい手法です。より拡大して撮影したい場合は望遠レンズを使った追尾撮影が適していますが、彗星自体が太陽周りを高速で移動しているため、露出時間を短くすることが重要になります。特に太陽に接近した彗星では数分の露出でも彗星がブレて写ってしまうため、ISO感度を上げて露出時間を短縮する工夫が必要です。
さらに詳細に彗星の核や構造を捉えたい場合は、天体望遠鏡の直焦点撮影が効果的です。この方法は彗星の核のクローズアップや暗い彗星の撮影に適していますが、写野が狭くなるため長く伸びた尾を捉えるには不向きです。撮影では双眼鏡を使って彗星の位置を事前に確認し、星図と照らし合わせながら正確にフレーミングすることが大切です。アストロアーツが提供する「ステラナビゲータ」などの天文シミュレーションソフトを使えば、撮影時刻における彗星の正確な位置と高度を事前にシミュレーションでき、撮影計画を立てやすくなります。
彗星の最も特徴的な要素である尾は、実は2種類の異なる成分から構成されています。彗星が太陽に近づくと日射により内部の物質が蒸発・気化し、核から放出された物質が周囲にコマ(大気)を形成します。このコマから伸びるのが尾ですが、その成分と形状によって「イオンの尾(プラズマの尾、タイプI)」と「ダストの尾(チリの尾、タイプII)」に分類されます。
イオンの尾は太陽の紫外線を受けて電離したガスで構成され、青白く見えるのが特徴です。太陽風の影響を強く受けるため、常に太陽の反対側へほぼ直線的に伸びます。一方ダストの尾は数マイクロメートル以下のチリの粒子からなり、白っぽく見えます。太陽光の圧力(光圧)と彗星の軌道運動の影響を受けて、太陽の反対側へ弧を描くように広がります。この2つの尾は別々の方向を向いており、明るい彗星では両方の尾が同時に観測できることがあります。
彗星の尾が常に太陽の反対側に延びるという性質は、しばしば誤解されがちです。彗星は後ろに尾を引きながら夜空を流れるように飛んでいくと思われがちですが、実際には彗星の進行方向とは無関係に、太陽からの放射圧や太陽風によって太陽と反対方向へ尾が形成されます。そのため太陽に近づく時も遠ざかる時も、尾は常に太陽と反対側を向いているのです。この科学的な仕組みを理解すると、彗星観測や撮影時に尾の方向を予測しやすくなり、より効果的な構図で撮影できます。
彗星発見の歴史は天文学の発展とともに歩んできました。18世紀のフランスの天文学者シャルル・メシエは「彗星の狩人」として知られ、彗星探しに情熱を注ぎました。彗星を発見すれば自分の名前がその彗星に付けられ、一躍有名になることができたため、多くの天文学者が彗星探索に取り組みました。メシエは1759年1月21日にハレー彗星の回帰を捉えることに成功しましたが、世界最初の発見者という栄誉はドイツのパリッチュに譲ることとなりました。しかしこの一件でメシエの名はフランスの天文学者に広く知られるようになります。
1769年にメシエはおひつじ座の南で彗星を発見し、この彗星は大彗星となってベルリン科学アカデミーの外国人会員の資格を得る栄誉をもたらしました。翌1770年にも彗星を発見し、ついにパリ学士院の正会員の資格を獲得しています。メシエは彗星探索の過程で、彗星と紛らわしい天体(星雲や星団)のカタログを作成し、これが後に「メシエ天体カタログ」として天文学に大きな貢献を果たすこととなりました。
日本においても優れたコメットハンターが活躍しています。高知県出身の関勉氏はこれまでに6個の彗星を新発見し、28個の周期彗星を再発見しています。中でも1965年に発見した「池谷・関彗星」は大彗星となり世界的に有名になりました。近年では自動観測プロジェクトによる彗星発見が増えており、アメリカのレモン山天文台やSOHO太陽観測衛星、アトラス望遠鏡システムなど、宇宙空間を継続的に監視する装置が多くの彗星を発見しています。これらのシステムが捉えた画像から新彗星が見つかるケースが増え、彗星発見の手法も大きく変化しています。
アストロアーツは1990年代から天文情報の提供を続けており、現在では彗星観測に欠かせない情報源となっています。同社が提供する「ステラナビゲータ」は天文シミュレーションソフトとして高い評価を受けており、彗星の位置や軌道を正確にシミュレーションできます。スマートフォンアプリ「星空ナビ」と連携させれば、観測現場で二次元コードを読み取って天文現象の方向をリアルタイムで確認でき、初心者でも迷わず目的の天体を探せます。
年間刊行物「アストロガイド 星空年鑑」は1990年から続くムックで、一年間の天文現象をオールカラーの誌面、プラネタリウム番組、パソコンソフトで紹介しています。2025年版では土星の環の消失や全国で見られる皆既月食など注目の天文現象を特集し、彗星情報も詳しく掲載されています。カラー写真やイラストで解説された本誌に加え、DVD-VIDEO/ROMには「アストロガイドブラウザ」が収録され、Windows環境で天文現象をシミュレーションできます。
アストロアーツのウェブサイトでは「天体写真ギャラリー」も公開されており、観測者が撮影した彗星の画像が多数掲載されています。レモン彗星やアトラス彗星など話題の彗星については特集ページが設けられ、最新の観測情報や撮影のコツが随時更新されます。月刊誌「星ナビ」では毎月の観測ガイド「Observer's Navi」コーナーで彗星の発見経緯や見え方、明るさの予想を詳しく紹介しており、紙媒体とウェブの両方から総合的な情報を得られる体制が整っています。さらにライブ配信イベントも定期的に開催され、望遠鏡での観測映像をリアルタイムで楽しむこともできます。
<参考リンク>
彗星の最新情報と観測条件を確認できる公式サイト
アストロアーツ
彗星の基礎知識と構造について詳しく解説
国立天文台(NAOJ)
彗星の軌道情報と予報データ
吉田誠一のホームページ