骨相学が人種差別に使われたことを知らないと、あなたは「顔占い=差別」と誤解されて炎上するリスクがあります。
骨相学(こっそうがく、英語: Phrenology)とは、「脳は精神活動に対応する複数の器官の集合体であり、その器官の大きさの差が頭蓋骨の形に現れる」と主張した学説です。つまり、頭の形を見れば性格がわかる、というものです。
この学説を提唱したのは、ドイツ人医師フランツ・ヨーゼフ・ガル(1758〜1828年)です。ガルはもともと脳の解剖学・神経生理学の研究者で、正当な神経科学にも一定の功績を残した人物でした。
ガルの「器官学」によれば、大脳は「色、音、言語、名誉、友情、芸術、哲学、盗み、殺人、謙虚、高慢、社交」など27個の精神活動に対応する「器官」の集まりとされました。たとえば耳の上部が「破壊性」を表す器官とされ、その部分が盛り上がっていると「殺人をする性格」と判定されたのです。
つまり、こういうことですね。「頭の形を触るだけで、その人が犯罪者か善人かがわかる」という考え方です。
現代から見れば明らかにおかしい話ですが、当時は非常に受け入れられやすい考え方でした。なぜなら、専門家でなくても頭を触るだけで「診断」できたからです。骨相学師(practitioner)と呼ばれる人々が海辺の行楽地などに出没し、頭を触って性格を占う商売が大繁盛しました。これは現代の街角の占い師と非常に似た光景です。
骨相学は1800年代初頭にイギリスで大流行し、フランス・ドイツ・アメリカへと広がりました。ジョージ・クームの著書『人間の構造』(1828年)は1860年までに英国で10万部、米国で20万部売れるほどの大ベストセラーとなりました。現代でいえば、ミリオンセラーに相当する社会的影響力です。
当時の名士たちは、肖像画を描かせる際に「額を広く描かせる」風潮まで生まれたほどです。額が広いほど頭がよく見えたからです。
骨相学が占い好きにとって特に気になるテーマである理由は、その「人の顔や頭の形から性格を読む」という発想が、現代の人相学・顔占いと非常に近いからです。実際、哲学者ヘーゲルは自身の著書『精神現象学』の中で骨相学と人相学をともに批判的に論じています。
参考リンク:骨相学の基本・歴史・占いとの関係が詳しくまとめられています。
骨相学とは? その診断方法や歴史を解説|ExperimentBlog
参考リンク:骨相学のWikipedia記事。歴史・隆盛・衰退・遺産について網羅されています。
骨相学がただの「外れた占い」で終わらなかったのは、それが人種差別の「科学的根拠」として政治利用されたからです。これが歴史上、最大の問題点です。
まず、アメリカの物理学者サミュエル・モートンは著書『Crania Americana(アメリカ人の頭蓋骨)』の中で、「コーカサス人(白人)は頭蓋骨の計測から、アフリカ系やネイティブアメリカンよりも優れている」と主張しました。これは科学に見せかけた、あからさまな人種差別です。
結果ありきで証拠を作り上げる手法だったということですね。
モートンは自らに都合のよい白人の頭蓋骨を選び出し、一方で小さい頭蓋骨を持つインカ・ペルー人のものを過剰に代表させて、「白人の脳は大きく、黒人の脳は小さい」という結論を「証明」しようとしました。骨相学者の一部は、この考えを奴隷制や植民地支配を正当化するために積極的に利用したのです。
さらに深刻だったのは、ナチス・ドイツによる骨相学の政治利用です。ヒトラーのナチスは「進化論」と「骨相学」を結びつけ、ゲルマン民族(アーリア人)が世界一優秀であるという宣伝に利用しました。「顔面角(横顔で見た時の額・鼻の下・耳の穴を結んだ角度)が大きいほど優秀であり、ゲルマン民族はその点で世界最高だ」という主張です。
これは科学的に根拠のないものですが、当時はまだ広く信じられていた骨相学を利用することで、多くの国民を洗脳しました。「黒人やアジア人は猿と人間の中間のような存在(進化の途中)」、「ユダヤ人は退化した人間」とされ、この論理がホロコースト(ユダヤ人の絶滅政策・大量虐殺)に直結したのです。
骨相学は、ユダヤ人やロマ(かつてジプシーと呼ばれた人々)、黒人、ケルト系民族に対する差別を「科学として正当化」した。これが人類史上最大の負の遺産の一つです。
なお、人種の骨相学的分類では、日本人を含むモンゴロイドは「倫理的に劣り模倣的で独自性がない」と分類されていました。これは現代の日本人にとっても他人事ではない歴史的事実です。
このような経緯から、ナチス以降、「人間の外面と内面の相関関係を追究すること」は科学者にとって長い間タブーとなりました。
参考リンク:ナチスと骨相学の関係、AI骨相学の再興まで詳しく解説されています。
人類の忌まわしき黒歴史「骨相学」。科学を盲信することの危険性|らくかつ
占い好きの方なら「骨相学」と「人相学」の違いが気になる方も多いでしょう。この2つは似て非なるもので、しっかり区別しておくことが重要です。
骨相学は「頭蓋骨の形(凹凸)」から性格や能力を判定しようとするものです。一方、人相学(観相学)は「顔全体の見た目」から性格・運勢・吉凶を読み取るものです。主語が違うということですね。
人相学の起源はずっと古く、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著作(BC330年頃)にさかのぼります。アリストテレス名義の「観相学」では、顔の特徴を動物に例えて性格を類推していました(例:顔の小さい人は猫やサルのように心が狭い、など)。
骨相学を創始したガルの死後、その弟子たちによって1832年にパリに骨相学会が設立されました。骨相学はその後、イタリアの犯罪学者チェーザレ・ロンブローゾ(1835〜1909年)に引き継がれます。ロンブローゾは「犯罪者は生来の素質を持ち、容貌でそれがわかる」と主張しました。この考え方は現代では完全に否定されています。
興味深いのは、フランスでは今でも人相学が生き残っていることです。フランスの書店には「人相学コーナー」が存在し、ラジオでは「人生相談ならぬ、人相相談」まであるといいます。これは意外ですね。
一方、フランスの小児科医コルマンが考案した「相貌学」は、骨相学とは一線を画す視点を持っています。コルマンは顔の目・鼻・口がそれぞれ「知性・感情・本能」を表すと考え、成長の過程で形成される性格と顔の関係を研究しました。これは骨相学のような「人種差別への悪用」とは無縁の、占いに近い純粋な性格分類といえます。
占い好きにとってのポイントがあります。現代の顔占い・人相学は、19世紀の骨相学とは別物だという認識を持つことが大切です。しかし、「顔の形から性格を読む」という発想の根は共通しており、その歴史的背景を知らずに使うと、差別問題と混同されて誤解を招くことがあります。
参考リンク:人相学の歴史、骨相学との関係、フランスの相貌学まで詳しく解説されています。
人種差別に使われた「人相学」とは?|集英社インターナショナル
骨相学は19世紀に終わった話ではありません。21世紀のAI技術によって、形を変えて復活しています。これが現代における骨相学と差別の最前線です。
2016年、中国・上海交通大学の研究チームが「顔画像を用いた犯罪自動推論」という論文を発表しました。「顔の特徴から犯罪者を89.5%の確率で特定できる」とする内容です。実に驚くべき主張です。
2017年には、スタンフォード大学の研究者が「顔に基づいてその人がゲイかどうかを識別できるAI」を開発したと発表しました。さらに2020年には、アメリカのハリスバーグ科学技術大学が「ある人物が犯罪者になりうるかを予測する顔認識プログラムを開発した」と発表しましたが、機械学習の研究者・社会学者・歴史学者・倫理学者らによる批判の公開書簡が相次ぎ、論文は削除されました。
「AI骨相学」は批判を受けて撤回された例も多いということですね。
このような動向を受け、AI研究者の間では、このような顔認識AIを「サイバー骨相学(Cyber Phrenology)」と呼んで批判する声が高まっています。CNET Japan(2021年)はこのテーマについて「AIによる犯罪予測は人種差別的なサイバー骨相学にすぎない」と明確に報じています。
問題の核心はここにあります。「予測的ポリシング(Predictive Policing)」と呼ばれる手法では、過去の犯罪データを使ってアルゴリズムが「誰が犯罪を犯しそうか」を予測します。しかし、そのデータ自体に人種的バイアスが含まれていれば、AIは人種差別を「科学的に」再生産してしまうのです。
2024年には、日本でも「子どもの顔画像を入れると自閉症の可能性が高いか低いかを判別するアプリ」が物議を醸しました。これも同じ問題の延長線上にあります。
占い好きの方が注意すべき点は、「AIが顔を分析して性格や才能を診断する」系のアプリやサービスが急増していることです。これらの一部は、骨相学と同じ誤った前提の上に立っている可能性があります。エンタメとして楽しむ分には構いませんが、それを根拠に人の採用・排除・評価を行うことは、現代の骨相学的差別につながりかねません。
「数字は嘘をつかないが、詐欺師は数字を使う」という言葉が重く響きます。
参考リンク:AIによる犯罪予測がなぜ「サイバー骨相学」と呼ばれるかが解説されています。
骨相学の歴史を振り返ると、占い好きの方にとって非常に重要な教訓が浮かび上がります。それは「科学的に見える言説が、必ずしも真実とは限らない」という点です。
骨相学が19世紀に大流行した理由は、星占いや血液型診断が現代に流行した理由と構造が非常に似ています。「専門家(医師)が言っている」「なんとなく自分に当てはまる気がする」「みんながやっている」という理由で信じてしまう心理です。これが占いの魅力でもありますが、リスクでもあります。
実は骨相学は、当時から懐疑的な学者が多数いました。哲学者のジョン・スチュアート・ミルは著書の中で骨相学を批判し、ヘーゲルも『精神現象学』で批判的に論じています。大学の学問分野として認められたことは一度もなかったのです。
それでも大衆の間で爆発的に流行した理由は、「人について何かを教えてくれるもの」を人間が本能的に求めるからです。占いが現代でも愛される理由と全く同じです。
占い好きが骨相学から学べる教訓は3点あります。
まず、「見た目で他者を分類・評価することへの敬意ある慎重さ」を持つことです。人相学や顔占いは伝統的な文化として楽しめますが、それを「この人の顔は〇〇だから信用できない」という現実判断に使うのは危険です。骨相学の悪用はまさにそこから始まりました。
次に、「科学的に見えるものほど懐疑的な目を向ける」姿勢です。骨相学もAI顔認識も、数字やデータを使うことで「科学的な根拠がある」と思わせます。しかし、データの取り方次第でどんな結論も「証明」できてしまいます。
そして3つ目は、「占いはあくまで自己理解や楽しみのツールとして使う」という割り切りです。血液型診断も動物占いも、1970年代から今に至るまで根強い人気を誇っています。これらを職場の採用や人間関係の断絶の根拠にしなければ、占いは人生を豊かにする文化として機能します。
占いを楽しむためにも、その歴史的背景と差別への悪用例を知っておくことは有益です。骨相学の歴史を学ぶことは、現代のAI差別問題や、自分自身が信じる「占い的なもの」をより健全に楽しむための知識になります。
疑似科学の歴史に興味が出た方には、早稲田大学が公開している「性格の科学をひもとく歴史的アプローチ」も参考になります。
参考リンク:骨相学の歴史と、それが19世紀の科学にどう位置づけられていたかが学術的視点で解説されています。
性格の科学をひもとく歴史的アプローチ〜19世紀ヨーロッパで起きたこと|早稲田大学

ポスター マスター 2ピース ヴィンテージ 骨相学 & 手相占いポスター - レトロ シンボリックヘッドプリント - 手のひら読書チャートアート - 男性、女性へのギフト - オフィス、リビングルーム用ゴシック装飾、8x10 ベージュフレーム