防衛本能の種類と心理学的意味や自我との関係

防衛本能とは心を守るために無意識に働く心理メカニズムです。抑圧や投影など様々な種類があり、それぞれ異なる働きを持っています。あなたはどの防衛本能を使っていますか?

防衛本能の種類と心理的意味

この記事で分かること
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防衛本能の基本

心を守るために無意識に働く自我の防衛メカニズムと、その心理学的背景を理解できます

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防衛本能の種類

抑圧、投影、退行など主要な防衛本能の種類とそれぞれの特徴や具体例を学べます

成熟度とレベル

防衛本能には未熟なものから成熟したものまでレベルがあり、心の健康との関係が分かります

防衛本能とは、精神分析の創始者フロイトが発見した心理メカニズムで、自我が不安やストレスから心を守るために無意識に働く機能です。私たち日常生活の中で、受け入れがたい感情や欲求に直面したとき、自動的にこの防衛本能を使って心のバランスを保っています。
参考)防衛機制

 

フロイトは人の心を3つの要素で説明しました。本能的な欲求を持つイド(エス)、社会的な規範を求める超自我(スーパーエゴ)、そして両者の間でバランスを取る自我(エゴ)です。自我はイドから湧き出る衝動や超自我からの命令による罪悪感を処理するため、様々な防衛機制を使います。
参考)防衛機制 - 脳科学辞典

 

防衛本能は誰もが持つ正常な心理反応であり、これがあるからこそ私たちは社会生活を円滑に送れます。ただし、特定の防衛本能に過度に依存したり、自我機能が低下して防衛が上手く働かなくなったりすると、心身に症状が現れることもあります。
参考)防衛機制の種類と具体例まとめ~社会福祉士国家試験から福祉実践…

 

防衛本能の抑圧と無意識の関係

抑圧は防衛本能の中でも最も基本的なもので、受け入れがたい記憶や感情を無意識の奥深くに封じ込める働きです。フロイトが精神疾患の患者を治療する中で、過去の傷ついた体験や受け入れがたい感情が無意識に抑え込まれていることを発見し、これが防衛機制の概念の始まりとなりました。
参考)防衛維持メカニズム

 

幼少期のトラウマ体験の記憶は、抑圧によって意識されないまま、修正も癒しもされず、心の奥底に押し込められてしまいます。例えば、いじめられていた辛い記憶を完全に忘れてしまう場合や、嫌な予定を無意識にすっぽかしてしまうケースがこれに当たります。
参考)防衛機制と看護|基礎知識や11種類と具体例、看護の流れやポイ…

 

最も強い抑圧は無意識の深層にまで押しやられているため、他人に指摘されても本人が思い出すことは困難です。この抑え込まれた感情は、不適応や症状として表に現れることがあり、フロイトは自由連想法を用いて無意識に抑え込まれているものを言語化させることで治療を行いました。
神経科学研究では、解離症状が優勢な心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者において、トラウマ体験想起時に内側前頭前皮質の活動増加と扁桃体活動の低下が見られることが報告されています。これは抑圧が脳レベルでも機能していることを示唆します。

防衛本能の投影と同一化のメカニズム

投影は、自分の中にある受け入れがたい感情や性格を他者が持っているかのように知覚する防衛本能です。本当は自分のことなのに、相手がそうであるかのように感じてしまう心理的なメカニズムです。
例えば、怒りっぽい人が自らの怒りの感情を受け入れず、それを他者に投影して「相手が自分に対して怒っている」と決めつけるケースがあります。また、本心では「自分がAさんのことを嫌い」なのに、「Aさんから嫌われている」と感じてしまうことも投影の典型例です。
参考)苦手な人に対する心理と防衛機制

 

一方、同一化(取り入れ)は、周りの人の考えや行動の中で良いと思える部分を自分の中に取り入れていく防衛本能です。ある対象との結びつきを求める欲動が困難に遭遇した時、その人を模倣し、同じように考え・感じ・振る舞うことでその人を内に取り込みます。
幼少期には良い悪いに関わらず両親や養育者の価値観を取り入れて成長し、年齢が大きくなると自分にとって良いと思えるものだけを選んで取り入れるようになります。自信のない人が芸能人などの憧れの人を模倣し、同じような格好や話し方を真似るのも同一化の例です。

防衛本能の退行と反動形成の特徴

退行は、耐え難い状況に直面した時に、以前の未熟な段階の行動様式に逆戻りする防衛本能です。受け入れがたい欲求や感情に直面できず、自我の発達が逆戻りしてしまう現象です。
最も分かりやすい例が「赤ちゃん返り」で、弟や妹が生まれて母親が赤ちゃんの世話をするのを見た上の子どもが不安や脅威を感じて起こします。大人でも強いストレスによって退行が生じることがあり、テーマパークではしゃいで遊ぶのも幾分退行することでそれを楽しんでいると言えます。
反動形成は、本当に思っていることややりたいこととは反対の言動を取る防衛本能です。自我にとって受け入れがたい本能衝動の意識化を防ぐために、その衝動とは反対方向の態度を過度に強調します。
例えば、心の奥底では強い憎しみを抱いている相手に対して敢えて親切に振る舞うことや、嫌いな相手に友好的に接すること、自分のだらしなさを隠すために綺麗好きになることなどが挙げられます。この防衛本能は適度に働いていれば社会的に非常に適した防衛であると言えます。

防衛本能の否認と合理化の日常例

否認は、自分にとって不安になったり腹が立ったりするような周囲の刺激や事実を認めようとしない防衛本能です。ストレスや不安の原因から目をそらし、その事実を頑なに認めようとしません。
医師から「あなたは末期がんです」と診断されても、「そんなはずはない。私は健康そのものだ」とがんである事実を認めようとしないケースが典型例です。それに気づいてしまうと心が不安定になってしまうため、見ないようにする、あるいは無いかのように振る舞います。
問題や事柄が間近で起こっていても本人は気付いていないということが起こるのが否認の特徴です。これは意識的な「嘘」とは異なり、無意識レベルで働く防衛メカニズムです。
合理化は、満たされない自分の欲求に対してもっともらしい理由をつけて正当化し、自分を納得させる防衛本能です。イソップ物語の『酸っぱいブドウ』に登場するキツネの例が有名で、高い所のブドウを取れなかったキツネが「あのブドウは熟していないから美味しくないはず」と言って自分を納得させます。
都合の良い理由づけになるため、言い訳や負け惜しみのようになってしまうこともありますが、これも心を守るための自然な反応です。私たちは日常的に「今日は疲れているから」「タイミングが悪かったから」などの理由をつけて自分の失敗や不満を正当化しています。
参考)負け惜しみや現実逃避が自分を守る? 自尊心を保つためのコツ …

 

防衛本能の昇華と成熟した防衛の重要性

昇華は、受け入れがたい衝動を社会的に価値のある行動、特に創造的な活動に変化させる防衛本能です。本能的な欲求や衝動を、社会的に認められる活動や目標に向かってエネルギーとして使っていく働きです。
例えば、父親に対する強い怒りを抱いている人が勉学に励んで外科医になることや、芸術的な活動を通して自分の作品を作り上げること、身体を鍛えてスポーツの試合に出場することなどが昇華の例です。フロイトの娘アンナ・フロイトは、父の研究を発展させる中で昇華を新たに加えた10種類の防衛機制を提唱しました。
昇華は自我が十分に成熟している必要があり、健康的で社会的に望ましい防衛とされています。防衛本能には成熟度によるレベルがあり、一般的に「成熟した防衛」「神経症的な防衛」「未熟な防衛」の3段階に分類されます。
参考)心の盾、「防衛機制」を理解する:心理学的な視点から|くろ 作…

 

成熟した防衛機制は適応の階層の中で最も高いレベルに位置づけられ、より良い心理的健康、高い適応能力、困難な状況からの回復力と関連しています。心理療法において防衛機制がより成熟したレベルへと変化することは、長期的な症状改善や機能回復と関連していることが研究で示されています。
占い好きな人へのメッセージとして、防衛本能を理解することは自己理解を深める第一歩です。占いやスピリチュアルに頼ることも一種の防衛本能かもしれませんが、それは決して悪いことではありません。「見えないものが味方してくれている」と感じることで不安を和らげることができます。
参考)『もう占いに頼らない』は間違い。スピリチュアルを最強の味方に…

 

大切なのは、自分がどのような防衛本能を使っているのかを意識し、より成熟した防衛へと発展させていくことです。精神分析的心理療法では、自分の中にある防衛機制を理解し、防衛されている無意識の欲求や不安に意識を向けることで、より深い自己探索を進めていきます。
防衛本能は誰もが持つ自然な心理反応であり、大なり小なり誰でもいくつかの種類を使っています。これらを理解することで、自分自身の心の働きを客観的に捉え、より健全な心理状態を目指すことができるでしょう。